FORTY-NINE 楽と苦ならどちらを味わう?
文字数 1,154文字
「じゃあ、始めよっか」
美咲 さんの合図で僕らは作業を開始した。
ボイラー室の清掃作業。
気温も湿度も高くて不快指数も相当なレベルだ。
「サラトちゃん、頭ぶつけないようにね」
「はい」
「蓮見《はすみ》っち、サラトちゃんをフォローしてあげてね」
「はい」
返事はしたものの、サラトちゃんは一を聞いて十を知るタイプでとても呑み込みが速い。
それだけじゃなくって身体能力もすごいので作業自体もガシガシこなす。
更には。
「サラトちゃん、暑くない?」
「平気です、蓮見せんぱい。バドミントンのシャトルは風がダメですので締め切った体育館もこんな感じですので」
パーフェクトだ。
今日の現場は古くからご用命頂いている会社の自社ビルで、三春 ちゃんが居る頃からここでの作業は『苦行』と呼ばれていた。
ところがサラトちゃんにとっては苦行の内に入らないようで、様々な事象は相対的なものなのかな、と考えざるを得なかった。
「よし!終了!アイス食べよう!」
帰社する前にコンビニでアイスを食べた。
美咲さんはナッツを散りばめたチョコバー、僕はチョコミントバニラのカップ、サラトちゃんはソーダ・バー。
「サラトちゃんは普段どんな練習してるの?」
「ほとんど走ってますね。スタミナがないと瞬発力も出せないものですから」
「へえ。自分を追い込む感じのトレーニング?」
「はい。さっきもお話したみたいに試合会場は基本蒸し風呂ですから。わたしは普段からマスクをして走ったりしてましたね」
美咲さんとサラトちゃんの遣り取りを聞いていた僕に、サラトちゃんが訊いてきた。
「蓮見せんぱい。先に楽して後から苦労と苦労が先で後から楽とどちらがいいですか」
「え?」
唐突だったけれど、僕は深く考えずに答えた。
「先に苦労で後から楽かな」
サラトちゃんは変わらず真面目な顔で続けて質問する。
「縁美 さんと一緒に暮らしてるのが若い内の苦労、ってことですか」
なんだろう。
彼女の意図を諮りかねた僕は、美咲さんに助け舟を求めたい気持ちだったけど、そうせずに、自分の意思で自分の考えで答えた。
「そうじゃないよ。縁美と一緒に暮らしてるのは僕にとって楽しいことだよ。楽しいからこそ苦しいことも後回しにしないようにふたりで少しずつこなしていこう、って感覚かな」
「・・・そうですか」
さすがに微妙な空気を感じたようで美咲さんがフォローしてくれた。
「蓮見っちと縁美ちゃんは苦楽を共にする間柄、ってことだよね」
「まあ・・・そうですね」
「そう、ですか」
「ただいま」
「あ。お帰りなさい、蓮見くん」
「・・・苦労かけるね」
きょとん、とする縁美。
でも、すぐに、にこっ、とした。
「ほんとだよ、蓮見くん」
そう言ってから僕に甘えてきた。
「だから、ねぎらって?」
僕はいつもみたいに、縁美の髪をぽんぽんしてあげた。
ボイラー室の清掃作業。
気温も湿度も高くて不快指数も相当なレベルだ。
「サラトちゃん、頭ぶつけないようにね」
「はい」
「蓮見《はすみ》っち、サラトちゃんをフォローしてあげてね」
「はい」
返事はしたものの、サラトちゃんは一を聞いて十を知るタイプでとても呑み込みが速い。
それだけじゃなくって身体能力もすごいので作業自体もガシガシこなす。
更には。
「サラトちゃん、暑くない?」
「平気です、蓮見せんぱい。バドミントンのシャトルは風がダメですので締め切った体育館もこんな感じですので」
パーフェクトだ。
今日の現場は古くからご用命頂いている会社の自社ビルで、
ところがサラトちゃんにとっては苦行の内に入らないようで、様々な事象は相対的なものなのかな、と考えざるを得なかった。
「よし!終了!アイス食べよう!」
帰社する前にコンビニでアイスを食べた。
美咲さんはナッツを散りばめたチョコバー、僕はチョコミントバニラのカップ、サラトちゃんはソーダ・バー。
「サラトちゃんは普段どんな練習してるの?」
「ほとんど走ってますね。スタミナがないと瞬発力も出せないものですから」
「へえ。自分を追い込む感じのトレーニング?」
「はい。さっきもお話したみたいに試合会場は基本蒸し風呂ですから。わたしは普段からマスクをして走ったりしてましたね」
美咲さんとサラトちゃんの遣り取りを聞いていた僕に、サラトちゃんが訊いてきた。
「蓮見せんぱい。先に楽して後から苦労と苦労が先で後から楽とどちらがいいですか」
「え?」
唐突だったけれど、僕は深く考えずに答えた。
「先に苦労で後から楽かな」
サラトちゃんは変わらず真面目な顔で続けて質問する。
「
なんだろう。
彼女の意図を諮りかねた僕は、美咲さんに助け舟を求めたい気持ちだったけど、そうせずに、自分の意思で自分の考えで答えた。
「そうじゃないよ。縁美と一緒に暮らしてるのは僕にとって楽しいことだよ。楽しいからこそ苦しいことも後回しにしないようにふたりで少しずつこなしていこう、って感覚かな」
「・・・そうですか」
さすがに微妙な空気を感じたようで美咲さんがフォローしてくれた。
「蓮見っちと縁美ちゃんは苦楽を共にする間柄、ってことだよね」
「まあ・・・そうですね」
「そう、ですか」
「ただいま」
「あ。お帰りなさい、蓮見くん」
「・・・苦労かけるね」
きょとん、とする縁美。
でも、すぐに、にこっ、とした。
「ほんとだよ、蓮見くん」
そう言ってから僕に甘えてきた。
「だから、ねぎらって?」
僕はいつもみたいに、縁美の髪をぽんぽんしてあげた。