255 水入らずと猫いらずならどっち?

文字数 1,064文字

 日曜日。晴れ。

 昨日の内に作り置き惣菜の調理作業を前倒しで頑張ったので朝から縁美(えんみ)と出掛けた。

「どこ行く?」
「うーん。どこでも。蓮見(はすみ)くんは?」
「どこでも」

 とりあえずショッピングモールまで歩くことにした。
 直線コースじゃないけれども僕らの街の一級河川の土手を歩いて。

「蓮見くん。楽しい?」
「?なに?急に」
「いやー。最近蓮見くんのこと構ってあげてなかったのに久しぶりのお出かけがこんなたわいないお散歩で」
「楽しい」
「ほんと?」
「うん。楽しい」

 手袋の必要が無い温かな日差しだったので、手をつないだ。

 つないだ手をぶらんぶらん振る縁美。

「子供みたい」
「ほら、蓮見くんも振って振って」

 ふたりしてブランコが水平になるぐらいのあの感じで手を振ってたらお父さんとお母さんの間で両手を繋がれて歩いて来た女の子が「わたしもー」とねだってこっちはほんとのブランコみたいにして貰ってた。

「ふふ。かわいい」
「親子水入らずだね」
「蓮見くん」
「え」
「わたしたちは『何』水入らず?」

 ・・・・・恋人・・・・?

 ショッピングモールに着いた途端に縁美はベビー服のブランドショップに歩いて行く。僕もそのまま一緒に歩いた。

 ショップで縁美は赤ちゃん用のニットの帽子を手に取る。

「へえ・・・・こんなポンポンのついた帽子、蓮見くんは被れる?」
「無理無理」
「被ってた写真、あったよね」
「一応」
「ご両親、蓮見くんが可愛かったんだね」

 それはそうだろう。

 でも、一度意見を間違えば、こんなにこじれてもう随分と経つ。
 ちょっとだけ僕がどんよりしそうになってたら生後何か月かぐらいの赤ちゃんを抱いた若い夫婦とそのおばあちゃんが服やらちょっとしたおもちゃやらを入れた紙袋を持って店から出るところだった。

「ネズミには気をつけなさいよ」
「え。お義母(かあ)さま、ネズミですか?」
「母さん、今時居ないだろ?ウチ、マンションだし」
「何言ってるの。赤ちゃんがネズミに耳を齧られないようにまじないの言葉を教える昔話があるくらいだから。齧られないにしてもネズミが居そうな所に食べ物とか置いといたらダメよ」

 縁美が僕のダウンの裾を、くい、と引っ張る。

「蓮見くん」
「どうしたの?」
「お菓子、見に行こ?」

 すっかり忘れてたけど。
 今日はバレンタインデーだった。

「蓮見くん。好きなの選んで」
「ええ?」
「ちょっと合理的過ぎる?」
「いや、そんなことないけど・・・自分で選べって言われたら、ついつい家計のことまで考えちゃうよ・・・」
「さすが蓮見くん。だってわたしたちは・・・・・」

 やられた。

「夫婦水入らずだから」
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