122 傘と日傘ならどっち?

文字数 1,155文字

 雨が降れば傘をさす。

 当たり前だと思ってたんだけど、最近の女子はそうとは限らない。

「買っちゃった」

 仕事帰りにショッピング・モールに寄って買ってきたという。

「日傘?」
「そう」

 縁美(えんみ)は僕が出てくるまでアパートのドアの外で日傘をさしたままで立っていた。

 白に近いピンクの、ソメイヨシノの花びらみたいな色だった。
 当然普通の傘より小ぶりで持ち手は籐家具みたいな木製で。

蓮見(はすみ)くん、どう?かわいい?」

 持ったままカラダを少しかしげて、右足のかかとを床につけたまま爪先を、くん、と上げてみせる。

「か・・・かわ・・・」
「ん?」
「かわいい・・・・」
「よろしい!」

 ほんとにかわいかった。
 なのでしばらくそのまんまで数分間縁美のポーズ大会みたいな感じになって、ご近所の何人かがドアを開けては冷やかしていくのでようやく部屋に入った。

「たたむとこうなります」

 日傘はたたんでもかわいらしい形状だった。この短い(すん)がほんとになんとも言えない。
 そしてそれをアイテムとして手に持つ縁美もやっぱりかわいかった。

「でもほんとの真夏じゃもうないよ」
「蓮見くん。うらやましくなっちゃって」
「?なにが?」
「だって最近は中学生の子でも日傘さしてるんだもん」

 確かに通勤電車の中でも日傘をバッグと一緒に抱える女の子や、炎天下を日傘をさしてあるいている制服の女子が結構多いと思う。

「あと、アームカバーしてる子もかわいいよね。わたしも買おうかな」

 あ。

 いいと思った。

「うん。買ったら」
「よからぬ想像したでしょう」
「な、なに」
「なんていうかニーソックスの腕版みたいな雰囲気だもんね、アームカバーって」

 ココロを読まれたんだろうか。
 いや、男子ならステレオタイプでそういう風に見ると思ったのか。

「ただ・・・どうなのかな。ちょっと小柄で制服姿の子の方が古風な感じでしっくりくるのかな。ほら、大正ロマン、みたいな感じで」
「縁美みたいに背が高い女子でもいいと思うよ。でも大正ロマンなんて随分古い言い回しだね」
「蓮見くん」
「なに」
「コーディネートして。蓮見くんの妄想で」

 なので部屋の中で縁美の着せ替えをやった。
 遠慮しないで、と言われたのでほんとに僕の好み全開で縁美に指示を出した。

「白のノースリーブ。紺の膝上スカート。ソックスはグレーのふくらはぎぐらいまでのやつ。日傘はまっすぐに」
「はい。どうぞ」

 いい。
 かわいい。

「黄色地で白のチェックのワンピース。黒のベルトをゆったりめに締めて。それで素足。日傘は左斜め20°ぐらい」
「・・・・・どうぞ」

 ほんとにいい。

「白のTシャツの上に青のデニムのシャツをボタンとめずに羽織って。で、ショートパンツ。できるだけショートパンツに長くかかるように。素足。日傘は・・・」
「蓮見くん」
「う、うん」
「日傘、関係なくなってる」
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