139 お布団と人肌、温まるならどちら?

文字数 975文字

 寒い。

 夜中に目が覚めて、ふっ、と耳に意識を集中すると縁美(えんみ)のとても静かな寝息が、すっ・すっ、って聴こえる。

 スマホを傾けると2:05って表示された。

 月曜の朝じゃないことにほっとする。

 いや。
 ほんとは月曜の朝でも今はそんなに辛くない。
 今の仕事は現場作業の大変さや零細企業なのでお給料の面なんかで社会人としての苦労はあるけど、美咲(みさき)さんやサラトちゃんたちとも一緒にする苦労なのでそんなに辛くない。

 夜中目が覚めて隣に縁美がいるし。

蓮見(はすみ)くん。眠れないの?」
「あ。ごめん。起こしちゃった?」
「うん」
「ごめん」
「そっち行っていい?」

 僕が返事しない内に縁美が布団に入ってきた。

「ふふ。お邪魔しまーす」

 かわいい。

 縁美の首のあたりに掛け布団を乗っけてあげる。僕の左肩と縁美の右肩がパジャマ越しに触れ合って体温を感じ合うそのままの態勢で天井を見上げる。

「蓮見くん。何か辛いことって、ある?」
「そうだね・・・ほんとに漠然とした先行きの不安とか・・・」
「わたしもそうかな。もし仮に養子縁組で子供がわたしたちのところに来てくれたとして・・・ほんとにわたしたちでその子は幸せなのかな、とか」
「孫、って感覚で僕らの親に扱ってもらうのは難しいよね・・・」
「それからね、蓮見くん」
「うん」
「時々ね。うまく言葉で言えないような寂しい感じがしちゃうんだよ」

 そうだよ。
 言葉で言えないんだよ。

 縁美が僕の方にカラダを向ける。

「蓮見くん。ぎゅっ、てして」

 布団の中で僕と縁美は向き合った。

『そういうこと』のできないふたりだから、ただ、抱くだけ。

 でも、とても強くきつくお互いの腰のあたりを両腕で締めるようにして。

「もっと、ぎゅーっ、て、して・・・」

 背骨がどうにかなってしまわないかってぐらいにもっと腕を絞った。手のひらの力と、指先の力も、つりそうになるぐらいに強くして。

「あ・・・」

 僕が切ないのと同じように、彼女も切ないみたいだ。

 切ない代わりに、寂しさが溶けていく・・・・・・・・

 お互いの相手の肌と、骨の感触を知り尽くしたぐらいに抱き締め合って、満足した僕らは、ようやく力を抜いた。

「蓮見くん。眠れそう?」
「うん」
「よかった。おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 縁美がおでこを僕の胸にくっつけると彼女の髪が鼻に触れた。

 布団の中が、熱いぐらいに温かい・・・・・・・・
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