EIGHTY 裏道と表道、どの道歩く?
文字数 1,190文字
日曜の早い時間に一週間分の惣菜作り置き作業が終わったので午後からフリーになった。
「蓮見 くん。裏街道歩こうよ」
縁美 がニヤリと僕に笑いかける。
悪女の顔。
「あ、見て。猫が」
縁美が軽くはしゃいだ。
この街で一番大きな企業の工場の塀に沿った裏道で猫が歩いているのを見つけただけだけど。
「こんな道あったんだ・・・」
「ねえ」
体力的にも金銭的にも遠出をするまでの余力がなかったので、縁美の提案でいつもの街を裏道から覗いてみよう、ということになった。
ほとんどただの散歩だけど。
「あれ?こんなところにお不動さまが」
縁美が川のいつも通る側の沿道じゃなくて向こう岸の道で見つけた小さなお堂。
目が大きくて親しみを持てるお姿だけど、やっぱりお怒りを示した表情だった。
「このお不動さまはね、この街をお守り通しなんだって」
「そうなんだ。蓮見くん、郷土史とか詳しいの?」
「そうじゃないよ。ばあちゃんに教わっただけ」
前におわすお地蔵さまに隠れて見逃してたけど、右手に剣、左手に縄を持っておられた。
「かわいい」
縁美独特の表現だな。
少し日が翳って歩くには十分な涼しさだったけど、やっぱり湿気がある。
「あ。アイス!」
「ほんとだ。最中 ?」
金魚すくいに使うみたいなモナカ二枚にバニラアイスを挟んだシンプルな冷菓子だった。
「夏限定ですか?」
「いいえ。最初はそうだったんですけど好評なので今は一年じゅうやっています」
和菓子店の、僕らとそう年齢の違わない若旦那と談笑する縁美。
「あの・・・こんなことお聞きしたら失礼ですけど、こんな裏通りでお客さんって来るんですか」
「貴女 は来てくださいましたよね?」
イケメンだな。
顔も、セリフも。
「ごめんごめん、蓮見くん。長居しちゃって」
「楽しそうだったね」
「また・・・怒ってる?」
僕がもう少しだけ拗ねようとすると、一粒、鼻に当たった。
「雨だ」
「あ、蓮見くん、あそこにバス停が」
乗らないけど、雨宿りさせてもらおう。
「・・・なんだこれ」
「バス停の看板がいっぱい」
そこはバス停じゃなかった。
作業場のようなガレージに、田舎を舞台にしたアニメなんかに出てくるような、鉄製で四角い時刻表の上に行き先を書いた丸い鉄板が乗っかった昔ながらのバス停の看板が何本も置き去りにされてた。
「バス停の墓場?」
「バス停の看板の、だよ蓮見くん」
やっぱり錆び付いた鉄製の看板がガレージに掲げられてて、『(有)◯◯広告社』ってペンキで書かれてた。もう廃業した看板屋さんなんだろう。
「え!蓮見くん!」
「あ」
雨の匂いがする裏道の向こうからバスがゆっくりと走ってきて、停まった。
窓を見ると乗客は数人だけ。
顔を見合わせる僕と縁美。
「異世界行き、とか?」
前方のドアが開く。
運転手さんが言った。
「コミュニティバスですので何処からでも乗れますよ。どうぞ」
何処行きかわかんないけど乗ろっか、縁美。
「
悪女の顔。
「あ、見て。猫が」
縁美が軽くはしゃいだ。
この街で一番大きな企業の工場の塀に沿った裏道で猫が歩いているのを見つけただけだけど。
「こんな道あったんだ・・・」
「ねえ」
体力的にも金銭的にも遠出をするまでの余力がなかったので、縁美の提案でいつもの街を裏道から覗いてみよう、ということになった。
ほとんどただの散歩だけど。
「あれ?こんなところにお不動さまが」
縁美が川のいつも通る側の沿道じゃなくて向こう岸の道で見つけた小さなお堂。
目が大きくて親しみを持てるお姿だけど、やっぱりお怒りを示した表情だった。
「このお不動さまはね、この街をお守り通しなんだって」
「そうなんだ。蓮見くん、郷土史とか詳しいの?」
「そうじゃないよ。ばあちゃんに教わっただけ」
前におわすお地蔵さまに隠れて見逃してたけど、右手に剣、左手に縄を持っておられた。
「かわいい」
縁美独特の表現だな。
少し日が翳って歩くには十分な涼しさだったけど、やっぱり湿気がある。
「あ。アイス!」
「ほんとだ。
金魚すくいに使うみたいなモナカ二枚にバニラアイスを挟んだシンプルな冷菓子だった。
「夏限定ですか?」
「いいえ。最初はそうだったんですけど好評なので今は一年じゅうやっています」
和菓子店の、僕らとそう年齢の違わない若旦那と談笑する縁美。
「あの・・・こんなことお聞きしたら失礼ですけど、こんな裏通りでお客さんって来るんですか」
「
イケメンだな。
顔も、セリフも。
「ごめんごめん、蓮見くん。長居しちゃって」
「楽しそうだったね」
「また・・・怒ってる?」
僕がもう少しだけ拗ねようとすると、一粒、鼻に当たった。
「雨だ」
「あ、蓮見くん、あそこにバス停が」
乗らないけど、雨宿りさせてもらおう。
「・・・なんだこれ」
「バス停の看板がいっぱい」
そこはバス停じゃなかった。
作業場のようなガレージに、田舎を舞台にしたアニメなんかに出てくるような、鉄製で四角い時刻表の上に行き先を書いた丸い鉄板が乗っかった昔ながらのバス停の看板が何本も置き去りにされてた。
「バス停の墓場?」
「バス停の看板の、だよ蓮見くん」
やっぱり錆び付いた鉄製の看板がガレージに掲げられてて、『(有)◯◯広告社』ってペンキで書かれてた。もう廃業した看板屋さんなんだろう。
「え!蓮見くん!」
「あ」
雨の匂いがする裏道の向こうからバスがゆっくりと走ってきて、停まった。
窓を見ると乗客は数人だけ。
顔を見合わせる僕と縁美。
「異世界行き、とか?」
前方のドアが開く。
運転手さんが言った。
「コミュニティバスですので何処からでも乗れますよ。どうぞ」
何処行きかわかんないけど乗ろっか、縁美。