148 社畜と社長ならどっち?

文字数 1,122文字

「いやー。うちブラックでさあ」
「へえ・・・」

 地元の街に生きているとかつての同級生と出くわすことは時々あって、今日は帰りの電車で一緒になった。
 なんとなく飲みに行くことになって入った居酒屋での会話の切り出しがこれだ。

 飲みに行く前に縁美(えんみ)にはLINEを入れた。

蓮見(はすみ):飲みに行くので遅くなります。北田(きただ)って覚えてる?
縁美:うん・・・覚えてるよ・・・しっかりと

 縁美は僕らが誹謗中傷を受けた相手は胸に刻んでる。
 それを決して見せずに顔は笑ってるってだけで。

「北田。どうブラックなんだい?」
「体を使った作業があんだよ。高卒だからって軽く見てんじゃねえかな。あ、蓮見は中卒だったな」
「(どうでもいいだろ)でも軽作業ぐらいどんな会社でもあるだろう?」
「だりぃんだよなー。一応営業職なんだからそんなのバイト雇えばいいんだよ」
「北田んとこの社長も人件費なんかで悩んでんだろ」
「そんなら最初から仕事の内容言えよなー。俺はこんな効率の悪りぃ仕事のやり方反対だぜ」
「なら、改善の提案でもすれば?」
「なんで俺が」

 なんで?

 僕にしたらなんで『なんで?』なんて思うのかが疑問だ。

「だって北田の会社だろ?」
「蓮見ー。んなのずうっと勤めるわけねえだろ?どっかのタイミングで独立だよ、独立」
「・・・・・おカネは貯めてるのかい?」
「クラウドファンディングとか?そういうのをバンバン使って俺に投資してもらうのさ」
「やる事業の内容は今の会社と同じなんだろ?お前の社長を敵にまわしていいのか?」
「いいのいいの。恩なんか無えし、ドライに行かないと」
「そうじゃない」

 ムカムカくる。

「北田。お前はその社長に勝てるのか?仕事取り合って勝てるのか?」
「当たり前だ。雑務をバリバリの営業マンにやらせるなんて無駄なやり方は俺はしない。完全に仕事を切り分けて分業する」
「やめとけ」
「あ?」
「勝てないよ、北田じゃ」
「なんでだよ。あ、そっか。お前の仕事って掃除屋だもんな?まさしく雑務!気の毒なことだな」

 自分でもよくわからないけど。

 僕は怒鳴ってた。

「北田!お前の方が社畜だ!」

 他のテーブルの客が一斉にこっちを向いたけど知ったことか。

「な、なんで俺が社畜なんだよ」
「経営者ってもんはな。最後の最後は自分で責任取らなきゃならないんだ!自分でやんなきゃならないんだ!自分の店の前にゴミが落ちてたら社員に向かって『捨てとけ』じゃダメなんだ!真っ先に自分が拾わなきゃなんないんだ!」
「そ、そんなの社長の仕事じゃねえよ」
「じゃあ北田。もしそのゴミが原因で客がひとり減ったら社員に『お前が拾わないせいだ!』って叱るのか?なあ、一体誰の店なんだよ!?」
「・・・・・・・・・・・」
「お前の根性の方こそ社畜なんだよ!」
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