ONE HUNDRED TEN ゆるキャラとガチキャラならどっちを抱く?

文字数 1,083文字

 縁美(えんみ)は高身長でイケてる女子だけどかわいいものに目が無い。

蓮見(はすみ)くん。これ、かわいい」

 ネトリで買ってきたペンギンの抱きマクラ。

 目を閉じててうつ伏せに眠ってるようなフォルムの子供のペンギンだ。

 確かにかわいい。

 縁美が抱いて眠ってて、寝ている途中で夜中に手放している瞬間を見つけると僕も思わず抱いてしまう。

 僕も、かわいいものに目が無い。

 ただしこの近辺にはキャラクターショップが無いのでホームセンターやデパートの寝具やら台所小物なんかの実用品をゆるキャラで作ったような商品を物色せざるを得ない。

 けれども以前、一度だけ、どうしても浅草の観音様にお参りしなくちゃいけない用事があってふたりで東京に行った時、東京駅の八重洲地下街にひしめくキャラ・ショップで至福の時間を過ごしたことを思い出した。

「ああ・・・幸せだね、蓮見くん」
「うん。どうして僕らの街にはこういう店が無いのかな」
「マーケットが小さいから」

 縁美の現実的な正解にぐうの音も出ない僕はいくつもの坪数の小さい店をハシゴして回った。

 ただ、戦利品はことの他少なかった。

「どれも可愛過ぎて申し訳ない」

 僕の呟きに同意する縁美。

 かわいいものとかわいいものが混在すると、いくつもの神社のお札を一緒にした時にケンカすると言われるようなああいう状況になるんだ、きっと。

 僕は想像した。

 ペンギン VS ゴマフアザラシ

 クチバシの差でペンギンの勝利。

 たぬき VS きつね

 お腹の皮の差でたぬきの勝利。

 子犬 VS 子猫

 ドロー

「蓮見くん、勝敗の基準が不明瞭」

 縁美に叱られてしまった。

「ガチキャラ新入荷だよっ!」

 突然ファンシーな雰囲気にアメ横の濁声プロモーションみたいな口上が割り込んできた。

「ガチキャラ?」

 赤くて、丸い。

「ダルマだぁ!ちきしょうめ!」

 このひとは江戸っ子なんだろうか、と僕はストレートに思ったけど縁美は鋭かった。

「無許可だよ、きっと」

 紫のブルゾンを着てテキ屋みたいに口上を続ける。

「パンチパーマだ、パンチ!」

 小学生男子がそう言うと中年男子が怒鳴りつけた。

「デザインパーマだ、ちきしょうめ!」

 ぶるる、と足をもつれさす小学生男子。

 そしてそのダルマは与党が選挙で使う、ホンモノのダルマだった。

「でえい!」

 太い筆を丼に満たした墨に、どぷ、と浸した。

「やあい!」

 墨の飛沫を散らしながら、ぶるん、と震える筆の先端を、ダルマの右の白目目掛けて、突く!

 びちょぉ、と大きな黒目が入れられた。

「どうだあ!」

 そして中年男子は怒鳴った。

「ひとつ5万円だ、ちきしょうめ!」

 みんなぞろぞろと帰って行った。
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