SIXTY-FIVE やめる?続ける?どっち!?

文字数 1,015文字

 ものごとには潮時、というものがある。

蓮見(はすみ)せんぱい。ご相談が」
「え?僕?」

 サラトちゃんからそう言われて終業後、ふたりで会社近くのファミレスに入った。

「せんぱい。わたし、バドミントンを続けるかどうか迷ってるんです」
「え?でも、バドミントン留学の費用を稼ぐために高校行かずに就職したんじゃ」
「なんだか今の会社の仕事をずっと続けるのもいいな、って考えて。蓮見せんぱいと縁美(えんみ)さんはどうして中卒で就職を?」

 やっぱりそうきたか。
 僕と縁美とふたりの話なんだけどな。

「・・・駆け落ちしたんだ」
「えっ・・・」
「ああ・・・もしかしたら今時そんな言葉知らないかもしれないね。僕は家の都合があって元々高校へは行かないつもりだったんだけど、縁美はまあ僕のその事情に付き合ってくれて。というか僕がちょうどアパートを借りて一人暮らし始めるタイミングに縁美も乗っかった、って形にはなったけど」
「せんぱいの家の都合ってなんですか?」
「巡り巡って経済的なこと、としか言えない」
「?縁美さんはつまりせんぱいを利用したんですか?」
「それは違うよ」
「じゃあ、縁美さんは中学の時からせんぱいを好きだった?」
「ちょっと待って。いつの間にか僕らの尋問になってるよ」
「あ。

なんですね」
「うん。僕と縁美のことだから。だから縁美も一緒じゃないと話せない」

 いつも冷静沈着なサラトちゃんの、左目の切れ目がふるっと痙攣した。

「縁美さんが大切なんですね」

 はっきり言った。

「とても大事だよ」

 サラトちゃんの悩みに話を戻した。

「まあ、中卒の先輩として僕に訊いた訳だね」
「中卒とか・・・そんなんじゃなくって、大事なひとに訊きたかったんです」

 真っ直ぐだな。
 じゃあ。

「バドミントン、続けた方がいいよ」
「え」
「留学先はインドネシアなんだよね?誰かが待ってるかもしれないよ」
「誰か?」
「現地の人かもしれないしバドミントンを通じて日本で知り合うひとかもしれない。それがたまたま僕の場合は中卒で社会に出るタイミングだった、って話で」
「・・・わたしは、今この会社に入ったことがそのタイミングだと思ってます」
美咲(みさき)さんとか社長とかと出会ったこと?」

 彼女は首も振らずに目の位置を変えないままに言った。

「蓮見せんぱい。あなたのことです」

 僕は、はっきり言った。

「ごめん。僕はキミにとって、バドミントンよりも大事な存在には多分、なれない」
「まだ、3年あります」
「・・・一緒に仕事、頑張ろう」
「はい」
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