164 鈍行と急行ならどっち?
文字数 1,082文字
僕と縁美 が選んだのは青春18きっぷ。
JRの普通列車で一日どこまでも乗り継ぎできるきっぷ。
「20歳 だけどね、蓮見 くん」
縁美も有給の消化が必要だったので金曜の今日から祝日を含めて5連休だ。
「店長はびっくりしてたけど・・・蓮見くんのこと話したら『頑張っておいで!』だって」
もう既に涙が出そうだ。
始発に乗って北上する。
「はい、おべんとう」
まださすがに車内は空いてる。横がけの座席で縁美の握ったおにぎりを二人で齧った。
「仲いいね、あんたたち」
声を掛けてくれたのは今時居るんだ、と思ったけど行商のおばあさん。年季の入った上半身が隠れるぐらいの行李を膝に乗せてる。
「何を売ってらっしゃるんですか?」
「今は秋茄子さ」
不揃いで少し皮もざらっとした部分が混じってるけどとにかく大きい。
見事だ。
「わあ!ウチのスーパーに入れたいぐらい!」
「ほほ。無理じゃろ。規格外扱いだろ」
「・・・すみません」
「アンタが謝ることはない。それに秋茄子は嫁に食わすな、って言うじゃろ?あれは姑の意地悪じゃなくて種が無くて子宝が授からない、っていうのを心配してじゃよ!」
豪快に笑っておばあさんは降りて行った。
今日はひたすら電車を乗り継ぐ。
初日でできるだけ遠くまで移動する作戦だ。
緯度も経度も乗る電車も常に変化しながら、けれども乗り合わせるひとたちの生き様は大きくは変わらない。
疲れたビジネスマン。
私立の制服を着てランドセルを膝に置く男の子。
つり革につかまって恋人同士みたいに顔を寄せあい笑い合う女子高生。
大学生ぐらいだろうか、ほんとの恋人同士。
電車の窓から夕陽が差し込んで来た。
それを過ぎるとほどなく車窓は闇に包まれる。
「あ。立ち食いそば」
到着するホームを見るとそばのスタンドがあった。
「降りよっか」
もうこの辺まで来ると車両数が少なくなってた電車からホームに降りてふたりで食台の向こうのおばさんに注文した。
「たぬきそば2つ」
「はいよ」
惚れ惚れする手際であっという間に出来上がる。
トン・トンと置かれた丼を手に持って啜り込んだ。
縁美が訊く。
「駅の近くにホテルとかありますか?」
「そうだねえ。ビジネスホテルなら一軒あるよ。古いけどね」
ほんとに古かった。
『ホテル・ハープル・シャドウ・ナイト』
しかもこれは多分ビジネスホテルじゃない。
「いらっしゃいませ。ご休憩?」
「い、いえ!と、泊まりです!」
僕がホテルのスタッフさんに焦るような応対をすると縁美が横でくすくすと笑った。
「蓮見くん。夜は長いよ」
縁美も意地悪だ。
僕らはずっと何も無い夜を過ごして来てるっていうのに。
JRの普通列車で一日どこまでも乗り継ぎできるきっぷ。
「
縁美も有給の消化が必要だったので金曜の今日から祝日を含めて5連休だ。
「店長はびっくりしてたけど・・・蓮見くんのこと話したら『頑張っておいで!』だって」
もう既に涙が出そうだ。
始発に乗って北上する。
「はい、おべんとう」
まださすがに車内は空いてる。横がけの座席で縁美の握ったおにぎりを二人で齧った。
「仲いいね、あんたたち」
声を掛けてくれたのは今時居るんだ、と思ったけど行商のおばあさん。年季の入った上半身が隠れるぐらいの行李を膝に乗せてる。
「何を売ってらっしゃるんですか?」
「今は秋茄子さ」
不揃いで少し皮もざらっとした部分が混じってるけどとにかく大きい。
見事だ。
「わあ!ウチのスーパーに入れたいぐらい!」
「ほほ。無理じゃろ。規格外扱いだろ」
「・・・すみません」
「アンタが謝ることはない。それに秋茄子は嫁に食わすな、って言うじゃろ?あれは姑の意地悪じゃなくて種が無くて子宝が授からない、っていうのを心配してじゃよ!」
豪快に笑っておばあさんは降りて行った。
今日はひたすら電車を乗り継ぐ。
初日でできるだけ遠くまで移動する作戦だ。
緯度も経度も乗る電車も常に変化しながら、けれども乗り合わせるひとたちの生き様は大きくは変わらない。
疲れたビジネスマン。
私立の制服を着てランドセルを膝に置く男の子。
つり革につかまって恋人同士みたいに顔を寄せあい笑い合う女子高生。
大学生ぐらいだろうか、ほんとの恋人同士。
電車の窓から夕陽が差し込んで来た。
それを過ぎるとほどなく車窓は闇に包まれる。
「あ。立ち食いそば」
到着するホームを見るとそばのスタンドがあった。
「降りよっか」
もうこの辺まで来ると車両数が少なくなってた電車からホームに降りてふたりで食台の向こうのおばさんに注文した。
「たぬきそば2つ」
「はいよ」
惚れ惚れする手際であっという間に出来上がる。
トン・トンと置かれた丼を手に持って啜り込んだ。
縁美が訊く。
「駅の近くにホテルとかありますか?」
「そうだねえ。ビジネスホテルなら一軒あるよ。古いけどね」
ほんとに古かった。
『ホテル・ハープル・シャドウ・ナイト』
しかもこれは多分ビジネスホテルじゃない。
「いらっしゃいませ。ご休憩?」
「い、いえ!と、泊まりです!」
僕がホテルのスタッフさんに焦るような応対をすると縁美が横でくすくすと笑った。
「蓮見くん。夜は長いよ」
縁美も意地悪だ。
僕らはずっと何も無い夜を過ごして来てるっていうのに。