ONE HUNDRED SEVENTEEN 日常と非日常ならどっち?

文字数 999文字

「?」

 なにかが違う。

 それはネガティブな違和感じゃなくて、なんというか。

「ヒールだ」
「へへ」

 今日の縁美(えんみ)は僕よりも頭ひとつ高い。

 この間見せてくれた赤に黒のリボンのパンプス。ヒールもちゃんとあるやつ。

「履いてみたよ、蓮見(はすみ)くん」

 ノー残業デーの帰り道、縁美と示し合わせている、前から三両目の車両のドアから入ってきた彼女は・・・・・・・かわいかった。

 鶯色をとても淡くしたような色彩のグリーンのワンピースに一番気に入ってるっていう靴を履いて。

 ヒールの無いデッキシューズでも背が高くて振り返られることの多い縁美が今日は漏れなく二度見三度見をされている。

 男子・女子から漏れなく。

「スーパーで着替えたの?」
「そう。お客さんから冷やかされて冷やかされて」
「なんて」
「デートでしょ?って」

 デートっていい言葉だな。
 きっと老夫婦が街を散歩するだけでもそういう言葉を使うんだろうな。

「どこ行こっか」

 縁美は僕に選んで欲しがった。

「大都の一番上は?」

 僕らの街の唯一のデパートのある駅で降りて、そのフロアだけ23:00まで直通のエレベータが通じてて営業してるレストラン街のある最上階に登った。

「夜景だね」
「あそこが幼稚園かな」
「わ。もっと現実から離れた描写して?蓮見くん」

 中華料理にした。
 そんなにたくさんも食べられないのでお好みの麺を一品と天心、デザート、烏龍茶、っていうコースを頼んだ。

 ここでも縁美は目立つ。

「お客様。もし差し支えなければ今月の『お客様ピンナップ』にさせていただけないでしょうか?」

 来店客の写真を店の入り口に月替りで掲げるんだという。
 縁美が女性スタッフに質問する。

「ツーショット・・・ではないんですね?」
「はい。御婦人のみとさせていただいております」
「蓮見くん。どうしようか?」
「縁美。撮って貰いなよ」

 ただ、テーブルで食事している様子を撮るのかと思ったら。

「この窓の夜景の前にお立ちください」

 確かにヒールを履いた縁美の立ち姿を撮らない手はないだろう。

 いわゆるモデルみたいなシャープで攻撃的なシルエットではないだろうけど、背が高くてスレンダー、と言って差し支えない、けれども柔らかな真っ直ぐに近い曲線の縁美の写真がその場で出来上がった。

 僕も日常を離れた表現をしよう。

「縁美」
「なに」
「綺麗だよ」

 縁美は一瞬、う、という表情で黙ったけど、無理やり一言で日常に戻した。

「やめてー」
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