274 愛と恋なら・・・両方あるから恋愛なんでしょ?
文字数 1,058文字
今日も一日働いた。
疲れて、帰って、アパートで縁美 と一緒に晩ご飯を食べて。
春の夜風に吹かれながら不動湯からの帰り道。
「まだ部分部分は冷たいけどね」
「えっ。なに?部分部分て」
「蓮見 くん。鼻のてっぺんに当たる風と、頬に当たる風と、首筋に当たる風と、どれが冷たい?」
「首筋、かな・・・」
「正解!じゃあ、暖かいのは?」
「鼻・・・だと思う」
ちゅ、と縁美が僕の鼻に唇で齧るようにしてキスしてきた。
「ひ、人が来るよ?」
「嬉しいでしょ?」
縁美は僕のセーターの袖を引いて、銭湯の帰り道にある、お地蔵さまと、その後ろにお不動さまの石仏がおられる小さな観音堂の隣へ僕を連れ去った。
「ヘイヘイ蓮見くん。ここなら邪魔は入らないぜ」
かわいい。
「お地蔵さまが観ておられるよ。お不動さまも」
「もう」
さらに僕のセーターを引っ張って桜並木の遊歩道まで拉致する。
「まさか桜が観てるなんて言わないよね?」
「蕾が膨らんでる」
縁美は僕に胸を当ててきたので、僕も反射で彼女の背中に手を廻した。
「タオル、落とさないでね」
きっとそれが照れ隠しなんだろうと思う。その後はふたりして黙って、ただ、お互いの上唇と下唇のぷっくらとしっとりとした味覚と触覚とだけとを感じた。
「ねえ、縁美」
「はい」
「ごめんね。僕はキス以上のことをしてあげられない」
「また言う。ふふっ。このキスはキス以上のエロティックなキス」
「うわ」
「男女の
「その言い回しはやだな」
「ごめんね。ならずっと昔のポップ・チューンのタイトルみたいに『Soft & Wet』で」
「う、うん・・・」
「甘くて、でもレモンみたいな」
「え、縁美」
「ぎゅーっ、ってもう離さないから!っていうぐらいに相手の背骨を折りそうなぐらいに抱き締める情熱的なキス!」
「あ、ありがとう」
なにがありがとうなんだろう。
でも、やっぱりありがとうかな。
「春の夜風は極楽の風」
「なにそれ」
「子供の頃家族でスーパー銭湯に行った帰りにおばあちゃんがそう言ってた」
「極楽の風、か」
ほんとうにそんな春の風。
春の夜風が、ほんの少しひんやりしてきて。
ズボッ
「わ」
「冷えるから」
夜風に自分の肩を抱いてた縁美の頭から、僕は自分が着ていたセーターを被せてあげた。
背の高い縁美だから、丈がちょっと短いかもしれないけど。
「蓮見くん、かっこいい!男の子!」
「いえいえ」
「素敵!大好き!チューしちゃうから!」
「ちょ、ちょ」
僕はまるで文学青年みたいなことを言った。
「月が観てる」
疲れて、帰って、アパートで
春の夜風に吹かれながら不動湯からの帰り道。
「まだ部分部分は冷たいけどね」
「えっ。なに?部分部分て」
「
「首筋、かな・・・」
「正解!じゃあ、暖かいのは?」
「鼻・・・だと思う」
ちゅ、と縁美が僕の鼻に唇で齧るようにしてキスしてきた。
「ひ、人が来るよ?」
「嬉しいでしょ?」
縁美は僕のセーターの袖を引いて、銭湯の帰り道にある、お地蔵さまと、その後ろにお不動さまの石仏がおられる小さな観音堂の隣へ僕を連れ去った。
「ヘイヘイ蓮見くん。ここなら邪魔は入らないぜ」
かわいい。
「お地蔵さまが観ておられるよ。お不動さまも」
「もう」
さらに僕のセーターを引っ張って桜並木の遊歩道まで拉致する。
「まさか桜が観てるなんて言わないよね?」
「蕾が膨らんでる」
縁美は僕に胸を当ててきたので、僕も反射で彼女の背中に手を廻した。
「タオル、落とさないでね」
きっとそれが照れ隠しなんだろうと思う。その後はふたりして黙って、ただ、お互いの上唇と下唇のぷっくらとしっとりとした味覚と触覚とだけとを感じた。
「ねえ、縁美」
「はい」
「ごめんね。僕はキス以上のことをしてあげられない」
「また言う。ふふっ。このキスはキス以上のエロティックなキス」
「うわ」
「男女の
そういうこと
よりも遥かに遥かにエッチで濃密でなんだかぐにゅぐにゅしてて」「その言い回しはやだな」
「ごめんね。ならずっと昔のポップ・チューンのタイトルみたいに『Soft & Wet』で」
「う、うん・・・」
「甘くて、でもレモンみたいな」
「え、縁美」
「ぎゅーっ、ってもう離さないから!っていうぐらいに相手の背骨を折りそうなぐらいに抱き締める情熱的なキス!」
「あ、ありがとう」
なにがありがとうなんだろう。
でも、やっぱりありがとうかな。
「春の夜風は極楽の風」
「なにそれ」
「子供の頃家族でスーパー銭湯に行った帰りにおばあちゃんがそう言ってた」
「極楽の風、か」
ほんとうにそんな春の風。
春の夜風が、ほんの少しひんやりしてきて。
ズボッ
「わ」
「冷えるから」
夜風に自分の肩を抱いてた縁美の頭から、僕は自分が着ていたセーターを被せてあげた。
背の高い縁美だから、丈がちょっと短いかもしれないけど。
「蓮見くん、かっこいい!男の子!」
「いえいえ」
「素敵!大好き!チューしちゃうから!」
「ちょ、ちょ」
僕はまるで文学青年みたいなことを言った。
「月が観てる」