NINETY-SEVEN SessionとRecession 今はどっち?

文字数 1,068文字

 金曜の夜の過ごし方は実はいっぱいあって。

蓮見(はすみ)くん、準備できたよ」
「では」

 僕と縁美(えんみ)はスマホの画面に向かう。

 表示されているのは作曲アプリ『Garage Band』

 ひとつの布団に寝そべって額と額をくっつけあうぐらいに互いの前髪が触れそうで少しだけ触れるような隙間でタッチする。

「まずはドラムを」

 僕は音源をドラムの『新規パターン』にセットしてバスドラのパターンを指でブロックにタッチしていく。

 インディケーターが速い速度で点滅するのを見届けてバスドラの音を聴きながら今度はスネアのパターンを。

「蓮見くん。わたしがクローズ・ハイハットのパターン入れていい?」
「入れて」

 縁美が軽く僕のなぞらえた跡を指で、微弱の静電気が起こるような繊細な刺激でもって触れる。
 いや、触れるんじゃなくてほんとに触れるか触れないかの数ミクロンの隙間をそれと保ったままで。

 すると閉じたままのハイハットのパターンが規則的に綴られていく。

 僕はたまらなくなって、シンバルのクラッシュとオープン・ハイハットを縁美の指に重ねるように・・・柔らかく、ビルド・アップの音を発するように奏でた。

「あ・・・・・・」

 縁美の唇から声が漏れる。

「ベースを」

 一弦の高い音を僕が。
 縁美は、低く、ト・ト・ト、と叩くように弦を・・・・・・・・・弾いた。

「ギター」
「はい」

 今夜の縁美は僕に従順だ。

 手ほどきを受けるようにベースラインと半音だけズレる音を・・・・・・タップ・・・・する・・・・・・・

「も、ひとつ」
「うん」

 僕と縁美の人差し指が交差した。

 だから、縁美は親指を使った。

 細い親指。

 逆方向に反る曲線が、僕を視覚で刺激する。

「ピアノは?」
「鍵盤、ひとつだけで十分だから・・・・・・・」

 タップしてピアノの音源を選択する。

 音もなく表示される鍵盤。

 オクターブを上げる。

 喘ぐように。

 縁美は、短く切った爪の、指先がナチュラルなピンク色のその人差し指で。

 せわしく叩き込んだ。

「もっと・・・・・・・・リズミカルに」

 僕は追加のオーダーを縁美にした。

 あ・・・・うん・・・の息で僕と縁美は意思を通じあわせて、縁美はもうひとふり、バスドラとスネアとハイハットを連ねて僕を打ってくれた。

 それから、トラックひとつひとつに、きわめて適切なリバーブをかける。

 感極まる声が響くような、そんなエコーも。

「ああ・・・・・・」
「う・ん・・・・・・・」

 ふたりの営みを奏で終えて疲れて果てた僕らは、互いの枕に顔を押し当て、一緒に築き上げた即興の果実をループさせる。

 たった8小節を、永遠に。


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