226 苦と楽ならどっち?

文字数 1,176文字

 今年は過密を避けるということで氏神さまへの初詣は正月三日の今日になった。縁美(えんみ)がスーパーの初売りから帰って来た夕方近くになった。

「縁美。早かったね」
蓮見(はすみ)くん。まだお正月だから。みんなでシフトを工夫したの」

 夕暮れ時で境内は提灯の明かりの下、綿菓子やお好み焼きなんかの屋台も出ていてちょっといい感じだった。

「帰りにね」

 僕ににこっ、と笑いかける縁美がかわいい。
 
 年末は真直(まなお)ちゃんの襲撃で年始には絵プロ鵜(えぷろう)の実家にお呼ばれしたりと賑やかだったから久しぶりの水入らずだ。

「蓮見くん。『〇〇水入らず』の〇〇に入る二文字を答えよ。3、2、1!」
「ふ、ふう・・・」
「ブブー!時間切れです!正解は・・・『ラン水入らず』でした!」
「な、なにそれ・・・」
「蘭は水をやり過ぎるといけないんだよ」

 今日は彼女はケラケラ笑う。

 なんだろう、運気が上がってるのかな、縁美。

 お参りした後でおみくじを引いた。

「『坂道を下る』・・・」
「えっ!」
「縁美、大丈夫。『坂道を下るように楽々と一家で過ごせる運勢です』だって。末吉だよ」
「わあ・・・・・いいね、蓮見くん。しかも一家で末が良いっていうのはわたしも期待しちゃうな」

 一家。
 そうだよ、さっきの〇〇も『家族』ってズバッと言っちゃえばよかった。

「縁美は?」
「ジャジャン!大吉!」
「すごい!」
「大吉も嬉しいんだけど・・・内容が嬉しいの。聞いて?蓮見くん」

 アカデミー賞の発表みたいに雰囲気たっぷりで読み上げる縁美。

「『大きなことを成し遂げねば
  偉大な人間にならねば
  と自分を追い詰める必要はない

  大切なのはあなたの心
  あなたの人生はあなたのもの
  遠回りだと感じても
  楽しんで過ごせる道を
  進みなさい』」
「・・・・・・縁美にぴったりだ」
「ありがとう」
「縁美。キミは自分のやりたいことが自然と人を幸せにする・・・そんな女の子だって15歳の頃からずっとそう思ってる」
「褒めすぎだよ」
「いや。僕がそうだった。キミの笑顔はもちろん、僕を想って泣いてくれた時も・・・それから」
「うんうん」
「怒った顔も可愛くて、僕は幸せだった」
「・・・・⚡︎⚡︎⚡︎!」

 あ。
 ちょっとデレデレ過ぎたかな。

「蓮見くん。わたしたち苦楽を共にしてきたもんね」
「ううん。僕のおみくじ、さっき言ったよね?」
「あ」
「坂道を下るように楽々と・・・僕はキミと一緒に居て何があっても『楽』しか感じなかったよ」
「じゃあ・・・わたしは楽しくしてていいんだね」
「もちろん」
「じゃあ・・・綿菓子とお好み焼きとどっち?」

 甘いのと辛いのか・・・ん・・・と

「ブブー!正解は綿菓子とひとくちカステラ!」
「選択肢になかった、両方ともお菓子」
「今年も甘々の楽々でいこうよ!」

 それから・・・・
 縁美のおみくじには『春に運勢が変わる』って書いてあった。

 春か・・・・待ち遠しいな・・・・
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