FIFTY-ONE 昼と夜ならどっちがキツい?

文字数 925文字

 昼夜逆転。

 社長が取ってきたスポットの受注で一週間夜勤だ。

 老舗デパートがリニューアル・オープンのための改装工事をやってて、昼間は工事業者さんが仕上げの作業を行い、出来上がったフロアから順に僕たちがクリーニングとワックスがけを施す。

 夜通しで。

美咲(みさき)さん。そっち手伝いますよ」
「サンキュー、蓮見(はすみ)っち。ふう・・・このトシになるとこたえるわあ・・・」

 ワックスがけは実は汗を絞るような重労働だ。サラトちゃんですら息を上げながら作業している。

「サラトちゃん。少し休憩しなよ」
「はい・・・蓮見せんぱいは平気なんですか?」
「キツいけど、なんとなく慣れてるから」
「じゃあ、わたしも慣れます!」

 コーヒータイム。

「はあ・・・これをあと二日か・・・」
「美咲さん、今回はさすがにキツかったですね」
「蓮見っちも?まあ、こんだけ広い店舗だからね。サラトちゃんは?昼夜逆転の生活だとアスリートとしてカラダによくないでしょ?」
「いいえ。逆に絶好の練習です」
「絶好の練習?」
「はい。バドミントンはアジアだけでなくヨーロッパも主戦場になります。時差がある国での大会へ行く時はカラダを急激に昼夜逆転に慣らす必要も出てきますから」
「なるほど」
「それにわたしはアスリート、っていう括りは余り好きじゃありません」
「え?」

 僕は次のサラトちゃんの言葉に驚愕した。

「働く人たちだって、戦ってるわけですから」

 なんとまあ・・・

 作業を終えて朝にアパートへ帰った。

「ただいま」
「お帰りなさい、蓮見くん。夜勤、お疲れさま」
「ありがとう。縁美(えんみ)は?これから出勤?」
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「あ、朝ご飯テーブルに出してあるから」
「ありがとう」

 そう玄関で挨拶を交わす僕らの前を風が通り過ぎた。

 カーテンが靡いて、朝日が縁美の右頬を明るく照らす。

「不思議だよね、蓮見くん」
「え?」
「蓮見くんが働いてた時はお月さまが蓮見くんたちを照らしてて、わたしが出かける時はお日さまが照らしてくれてる」
「そうだね・・・」
「お月さまは今度は別の国の人を照らして、お日さまも別の国の人をまた照らして」

 縁美の次の言葉に、僕はにっこりした。

「みんな、頑張ってるもんね」

 縁美。
 僕は、ほんとうに、君が好き。
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