FORTY 長・短どちらが優越?

文字数 1,027文字

 手短に。

 (ちょう)(たん)を兼ねる(大は小を兼ねる?)

 帯に短し襷に長し。

 因みに最後のは古いマニアックなアニメの口上のようなセリフで知った。

蓮見(はすみ)くん。そろそろ夏だから蚊取り線香あった方がいいよね」
「ええと。豚の陶器に入れるの?」
「もちろん・・・そして線香の概念は『長』だよね」
「うーん・・・じゃあ、『短』を象徴するものは?」
「『打ち上げ花火』かな?」
「ああ」

 縁美(えんみ)の答え。
 僕もそうだと思う。

 でももっと短いものがある。

「201号室の万年(ばんねん)さん。亡くなったよ」
「そう・・・ですか」

 僕らがこのアパートに引っ越してから一度も会わずじまいで万年さんは死んだ。

「弔電打つからお金出しな」
「はい」

 大家のおばさんが表情を無理に殺してお金を集めて行った。

 葬儀を執り行うってことは身内はおられたんだな。

「蓮見くん」
「なに」
「なんとなく呼んでみたくなったの」
「そっか・・・」

 これは僕の感覚でしかないけど、短ければ短いほどいいと思う。

 長くなれば情が移る。

 長ければ長いほど別離が悲しい。

 5年は既に長い。
 もっと短く、一日一日で区切った方が良かったのかな。
 もっと言えば瞬間瞬間で区切った方が。

「蓮見くん。茅の輪くぐり、行かない?」
夏越の大祓(なごしのおおはらえ)だね。どうして?」
「なんとなく・・・千歳(ちとせ)の健勝をと思って」
「わかるよ」

 でも僕はやっぱり短さの方に潔さを感じてしまう。

 短さに 潔さとに 五尺玉
 どおんと鳴って ぱっと消えゆく

 短歌、なんて言うぐらいだ。

 ふたりで神社へいくと、いわばセルフの大祓だった。

「ぐる・ぐる・ぐる・・・と」
「もう、蓮見くん。ちゃんと千歳の歌を詠みながら、だよ」

 水無月の夏越の祓する人は
 千歳の命延ぶと云うなり

「縁美」
「ん?」
「ほんとに千年寿命が延びたら、どうする?」
「・・・ちょっと身に余る、かな」
「短くても長い命がある」

 縁美が、はっ、とした顔をしてくれた。

 もし何か響いてくれたのなら、僕と縁美はやっぱり同質の人間で、短くて二度と戻らない、けれども愛おしい毎日を、その瞬間を、悠久の如くに楽しみつつ生きるだろう。

 あっ!
 でも!

「縁美。両手を広げてみて」
「えっ。こう?」

 細くて柔らかな湾曲を見せつつ大らかにリーチを広げ胸を張る彼女。

「長いね」
「わ。恥ずかし!」
「どうして?」
「だって、腕ばっかり長いもん」

 そんなことない。

 縁美は脚も形よく、長い。

 実際に背が高いだけでなくって、四肢が実測以上に長く見え、美麗に映えている。

 長きもまたよし。

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