260 夢と幻ならどっち?

文字数 955文字

 祝日の今日は僕も縁美(えんみ)も仕事だった。
 だから日中は特別にいつもと違うエピソードも無く、夜の帰宅後がふたりの時間だった。

蓮見(はすみ)くん。いい夢、見たいな」
「夢?縁美の夢って?」
「ふふ。『夢を追い求める』の夢じゃなくって、夜寝る時に観るリアルな夢だよ。あ、夢なのにリアルっていう言い方、変かな」

 つまり、今日一日は休日として過ごせなかったので、せめて楽しい夢を寝ている間に観たいということだった。

「できれば同じ夢が見たいな」

 縁美はまるで少女みたいなことを言う。いや、年齢は関係なく、パートナーとできれば夢を共有したいという願いは誰しも持つことがあるのかもしれないな。

 パジャマに着替えて布団に入って、互いの布団の縁の辺りまで寄り添ってスマホで検索してみた。

「・・・・・・『夢は未来のことを予知するのではなく、記憶を整理するものです。悩みや心配事を思ったままで眠りに就いたら悪夢を見やすいので注意しましょう』」
「当たってるね」
「うん。蓮見くんもそう思う?」

 じゃあ良い夢を見るためにはどうすれば。

「・・・・・『眠る前にリラックスして落ち着かせて、幸せなシーンを振り返ってみてください』。幸せなシーン、だね」
「うん。縁美」
「はい」
「縁美の幸せなシーンって?」
「蓮見くんと一緒に暮らし始めた日かな。もちろん不安や緊張もあったけど、好きな人と今日からずっと一緒だと思ったら、ほんとうに嬉しかったよ」
「僕も」
「うん!」
「僕も、縁美と一緒に暮らし始めた日が幸せなシーンだよ」
「うんうん!」

 だから縁美と僕は灯りを消してそれぞれの布団で目を閉じて、同居初日のあの感じを思い出してみた。
 でも、縁美は念押ししてきた。

「蓮見くん、確実にふたりで同じ夢を見る方法を取ろうよ」
「え。これでもまだダメかな?」
「ううん。大丈夫だ、って思うけど、幸せなシーンの記憶にプラスして今現在の幸せが欲しい」
「?」
「手を繋いで寝る、とか」

 僕たちは久しぶりに同じ布団で寝た。

 手を繋いで。

「おやすみ、蓮見くん」
「おやすみ」

 きゅっ、と握る手の平からお互いの汗が少しだけ感じられる。
 でもそれを通り過ぎると温もりだけになって、そうして気が付くと互いが自分の指の間に相手の指をしっかりと握ってあげてて。

 そうして僕は声に出さずにこう願った。

『縁美。いい夢を』
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