NINETY-ONE 8月15日はそうめんとスイカとどっちも?

文字数 1,156文字

 ずっと子供の頃の記憶だと、8月15日は親戚たちが本家でありお里である僕の家の墓参りを済ませた後で我が家に立ち寄り、素麺と西瓜でお接待した記憶がある。

 もっと古い赤子の頃の記憶まで遡ると、前日から泊まりがけで来ていた分家や嫁いで出て行った叔母や大叔母や従姉妹たちがふすまを外して開け広げた座敷に蚊屋を吊るした布団で大勢寝ていたという記憶もある。

 それが終わると盂蘭盆かその翌週くらいに母親に連れられて彼女のお里の墓参りに行き、母の実家に立ち寄って我が家よりも濃い出汁でつゆを作った素麺を頂いた。

蓮見(はすみ)くんのお母さまのご実家は八百屋さんだったんだ」
「うん。でも、雑貨屋さんとかグローサリーって表現が一番ぴったりくるかな。規模の小さいスーパーっていうか」
「コンビニみたいな?」
「あ、そっか。縁美(えんみ)に言われるまで気づかなかったよ。今で言えばまさしくコンビニだ」

 僕が初めてカップ焼きそばを食べたのも母の実家で母方のばあちゃんが『おやつだよ』って店の陳列棚からひょい、って取ってくれたやつだった。

「豆腐屋さんから卸してもらった作り立ての豆腐をさ、浮かべておくタイルを貼ったプールがあって」
「わ。それってわたしがウチのスーパーでやってみたいやつだ」
「そっか。もっと早くに縁美に話してあげればよかったね」

 それぞれの実家から忌み嫌われる僕らだから母方のばあちゃん家のことまでずっと黙ってたんだ。

 8月15日、僕らは自分たちの家があるのに行けない。

 このアパート以外に行き場がないんだ。

「蓮見くん。素麺食べよ」
「うん」

 終戦の日の追悼番組をテレビで見て黙祷してから素麺を頂いた。

 きゅうり、玉子焼きの細切りと椎茸の甘辛煮を薬味にして、生姜もおろして。

「あと、西瓜も」

 縁美が自分のスーパーでまるごと一個買ってきてくれたスイカを皮に沿ってきれいにブロック状にカットして冷蔵庫に冷やしておいたんだ。

「ちべたい」

 おばあちゃんみたいな言い回しをする縁美がかわいい。

 そして僕らにはエキストラな秘密兵器がある。

「うん。きれいに凍ってる」

 金属の平べったい円筒形の容器。
 真ん中には穴を作るための突起があって、つまりドーナツ状の氷を作るための容器なんだ。

 我が家には手動のコンパクトなかき氷機があるから。

「蓮見くんはメロン?いちご?レモン?」
「色が違うだけで味は同じでしょ?」
「もう。シロップ会社の人に叱られるよ?」

 それから『昼寝』をした。

 縁美が、すっ、すっ、と先に寝息を立てた。

 ショートパンツの上のTシャツがめくれておなかが出てる。

 タオルケットをかけてあげる代わりに、僕は手のひらを縁美の凹んだおなかのおへそ辺りにぴったりと当てて冷えないようにしてあげた。

 なんだか、赤ちゃんを宿した奥さんのおなかを護ってあげてる気分になった。
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