THIRTY-NINE 先発と抑えと貢献度は?
文字数 1,332文字
実は僕らふたりのひそかな趣味は野球観戦だったりする。
縁美 も僕も北の地方にホームを置く苦辛 イージーズのファンだ。
きっかけは本当に偶然だった。
「え。塩味 投手?」
「違うよ縁美。塩味 投手」
なんとなく名前が似てる感じがする新人ピッチャーが縁でふたりともファンになった。
ところでイージーズは当時まだ創設2年めだったのだけど弱小チームもいいところだった。
「あっ。蓮見 くん。また負けちゃった」
「うーん。勝てないねー」
BSで中継があって仕事から帰ったタイミングで試合をやっていればふたりで観て、放送されない日はニュースのスポーツコーナーで勝敗をチェックした。
なんというか3試合に2試合負ける勢いのこのチームが同棲を始めたばかりの僕らと重なって見えてしまってついついフォローし続けている内に選手の名前も覚え、そもそも僕も縁美も野球のルールすら怪しかったのに気がつくとイージーズの監督が書いた勝負事に関するエッセイまでふたりで回し読みするほどになった。
「蓮見くん。いつか球場に観に行こうね」
「うん」
そうこうしている内にこうして5年経ってしまって残念ながら球場で生の試合を観戦することができないままでいる。
ところが。
「は、蓮見くん!ウチのスーパーに塩味投手が来るんだって!」
「えっ。スーパーに?」
「うん。先発の塩味投手だけじゃなくって抑えの杉井投手も来てサイン会やるんだって」
僕も縁美のスーパーに行ってみた。
「あ。蓮見くん。こっちこっち!」
「すごい人だね」
「うん。だってまさか現役のプロ野球選手が来るなんてそうそうないでしょ?しかもこんな小さなスーパーに」
縁美は店員として場を仕切っていた。
「塩味投手、杉井投手。縁美と申します。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
ふたりとも礼儀正しい。
僕はスポーツにはとことん縁がなかったけど、イージーズの選手たちに対しては劣等感ではなく、とても親しみを感じる。それは他のひとたちも同じらしい。
「ちょっとちょっとアンタたち!もっと頑張ってよー」
「ありがとうございます。頑張ります」
「ほんとよー。そろそろ日本一になるのよ」
「はい」
「では、行こっか。蓮見くん」
「うん」
「サイン、お願いします」
僕と縁美は投手ふたりにねだった。
店員の役得とか言われようがなんと言われようがこればかりは譲れない。
「おお」
『ふたりで、勝つ!』
塩味投手と杉井投手がふたりして一枚の色紙に書いてくれた。
「かっこいい・・・」
縁美がうっとりした表情でイージーズの若き投手ふたりを見ている。
ちょっとだけ嫉妬してしまうけど、僕自身ふたりの投手を応援したい気持ちが強い。
だから、僕は握手を求めた。
すると、先発の塩味投手から、あっ、と思う言葉が返ってきた。
「一緒に毎日を戦いましょう」
「かっこいい・・・・・」
思わず僕がつぶやくと縁美が訳の分からないことを言った。
「は、蓮見くん、駄目だよ!塩味さんも杉井さんも男性だから!」
「分かってるよ」
杉井投手が僕らに訊いてきた。
「蓮見さんと縁美さん。どちらが先発でどちらが抑えなんですか」
そうすると縁美が素早く反応した。
「どちらかというとわたしは女房役、キャッチャーです」
「なるほど」
きっかけは本当に偶然だった。
「え。
「違うよ縁美。
なんとなく名前が似てる感じがする新人ピッチャーが縁でふたりともファンになった。
ところでイージーズは当時まだ創設2年めだったのだけど弱小チームもいいところだった。
「あっ。
「うーん。勝てないねー」
BSで中継があって仕事から帰ったタイミングで試合をやっていればふたりで観て、放送されない日はニュースのスポーツコーナーで勝敗をチェックした。
なんというか3試合に2試合負ける勢いのこのチームが同棲を始めたばかりの僕らと重なって見えてしまってついついフォローし続けている内に選手の名前も覚え、そもそも僕も縁美も野球のルールすら怪しかったのに気がつくとイージーズの監督が書いた勝負事に関するエッセイまでふたりで回し読みするほどになった。
「蓮見くん。いつか球場に観に行こうね」
「うん」
そうこうしている内にこうして5年経ってしまって残念ながら球場で生の試合を観戦することができないままでいる。
ところが。
「は、蓮見くん!ウチのスーパーに塩味投手が来るんだって!」
「えっ。スーパーに?」
「うん。先発の塩味投手だけじゃなくって抑えの杉井投手も来てサイン会やるんだって」
僕も縁美のスーパーに行ってみた。
「あ。蓮見くん。こっちこっち!」
「すごい人だね」
「うん。だってまさか現役のプロ野球選手が来るなんてそうそうないでしょ?しかもこんな小さなスーパーに」
縁美は店員として場を仕切っていた。
「塩味投手、杉井投手。縁美と申します。今日はよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いします」
ふたりとも礼儀正しい。
僕はスポーツにはとことん縁がなかったけど、イージーズの選手たちに対しては劣等感ではなく、とても親しみを感じる。それは他のひとたちも同じらしい。
「ちょっとちょっとアンタたち!もっと頑張ってよー」
「ありがとうございます。頑張ります」
「ほんとよー。そろそろ日本一になるのよ」
「はい」
「では、行こっか。蓮見くん」
「うん」
「サイン、お願いします」
僕と縁美は投手ふたりにねだった。
店員の役得とか言われようがなんと言われようがこればかりは譲れない。
「おお」
『ふたりで、勝つ!』
塩味投手と杉井投手がふたりして一枚の色紙に書いてくれた。
「かっこいい・・・」
縁美がうっとりした表情でイージーズの若き投手ふたりを見ている。
ちょっとだけ嫉妬してしまうけど、僕自身ふたりの投手を応援したい気持ちが強い。
だから、僕は握手を求めた。
すると、先発の塩味投手から、あっ、と思う言葉が返ってきた。
「一緒に毎日を戦いましょう」
「かっこいい・・・・・」
思わず僕がつぶやくと縁美が訳の分からないことを言った。
「は、蓮見くん、駄目だよ!塩味さんも杉井さんも男性だから!」
「分かってるよ」
杉井投手が僕らに訊いてきた。
「蓮見さんと縁美さん。どちらが先発でどちらが抑えなんですか」
そうすると縁美が素早く反応した。
「どちらかというとわたしは女房役、キャッチャーです」
「なるほど」