FORTY-FOUR 15歳と20歳ならお好みは?

文字数 1,022文字

蓮見(はすみ)くんも若い子の方がいいよね」
「えっ」

 僕はなんと言えばよいのだ。
 縁美(えんみ)も僕もじゅうぶん若いと思うのだけど。

「蓮見くん」
「はい」
「わたしたちは新緑」
「うん」
「サラトちゃんは新芽」
「うーん」
「もうひとつ譬えを」
「うん」
「サラトちゃんは日の出」
「うん・・・」
「わたしたちは斜陽」
「う・・・」
「なんてね」

 でも、どこまでがホンキなんだろう。

「蓮見せんぱい。ワックスの使い方教えてください」
「蓮見せんぱい。A社さんでの清掃フォーメーションはどうすれば」
「蓮見せんぱい。夜勤の時は何時〜何時までがコアタイムなんですか」
「蓮見せんぱい」
「なに。サラトちゃん」
「安くておいしいランチの店を教えてください」
「ええと・・・こことこことここかな」
「どのメニューがいいのかわかりません。一緒に行っていただけませんか?」
「・・・・・・・・」

「混んでますね」
「ここはボリュームもあるから」
「あ。これおいしそう」
「ああ・・・王道の唐揚げ定食だね。サラトちゃんは体育会系だったからこういうメニューもよく食べたんじゃない?」
「ところがですね。徹底して食事も自己管理で。わたしの尊敬する先輩でオリンピックの強化選手がいるんですけど、夜はサラダしか食べない、とか」
「へえ・・・意外だね」
「試合が近くなると糖質を避けて体脂肪率も落としていくんです。食事を制限してトレーニングは強度を上げて」
「すごいね。メンタルトレーニングなんかの本も読んだりしたの?」
「いいえ」
「ふーん。そういうのはしないんだ」
「いいえ」
「ええと・・・」
「小説を読むんです。それがメンタルトレーニングです」

 彼女からこれまでの読書リストを披露してもらったが、なかなかに激しく深甚な純文学ファンであることが分かった。

「リアリティを追求した小説ほどメンタルを太くする題材はありませんよ」
「そっか」

 こういう感覚をわかってしまう僕も純文学の愛好家なんだ。

「せんぱい」
「うん」
「20歳と15歳の違いはなんだと思いますか」
「さあ・・・なんだろう」
「言いますね」
「・・・うん」
「20歳は大人です」
「まあ、そうだね」
「15歳も大人です」
「うー・・・ん」
「何も、違わないんです」

 午後もOJTをやって、定時になるとサラトちゃんはランニング・ウェアとランニングシューズに着替え、自宅近くのバドミントンを練習している体育館まで15kmの道のりを帰宅ランして帰って行った。

 何も違わない、か。

 確かに15歳の僕と縁美も大人だったな。
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