NINETY-FOUR プレゼンとプレゼントなら欲しいのどっち?

文字数 1,108文字

「新規のお客さんを獲得するいい方法ないかな」

 社長が珍しく全社ミーティングを召集した。全社って言っても10人だけど。

「ウチみたいな超零細ビルメンテの会社だったら・・・今のお客さんから紹介してもらうぐらいしか・・・」
「チラシ配るとか」
「飛び込み営業なんてどうですかね」

 なかなかこれはっていうアイディアが出ない。

「プレゼン資料作ってみましょうか」

 サラトちゃんが現場作業へ出る合間にPCでコツコツ作ってくれた。

 僕は絵プロ鵜(えぷろう)に連絡する。

「ビルメンテナンスのキャラ描いてくれない?もちろん謝金は払うから」
蓮見(はすみ)どの、それはありがたい。で?かわいい系?キモ系?美形?醜形?」
「かわいい系で」

 サラトちゃんは中学の時に授業で頻繁にプレゼン用アプリを使ったらしい。なかなかの手際だった。

「できました」

 一週間でウチのサービス内容を分かりやすく見やすくまとめてくれた。
 シンプルに5ページでイラストもうるさくなりすぎず好印象を与える出来だ。

掃除本気子(そうじまじこ)?」
「はい。僕の友達の絵プロ鵜が作ってくれたキャラで・・・社長が学校での掃除を真面目にやってたってことを話したらこんな感じに描いてくれました」

 背中には、はたき、屑籠、ちりとり、を背負い、腰には雑巾、トング、ヘラ、をぶら下げ、両手にはモップとほうきを携えている。

 三頭身にデフォルメされたかわいらしい女の子のキャラだ。

 社長がはしゃぐ。

「いいね。いいね。で、プレゼンは誰がやる?」
「その前に誰にプレゼンするんですか」
「あっ」

 結局会社アカウントのSNSにプレゼン動画をのっけることにした。
 そしてプレゼンをするのは。

「えっ。僕ですか?」
「おー。蓮見っちなら適任だよ」
「はい。わたしも蓮見せんぱいなら好印象の動画になると思います」

 僕はみんなに頼んだ。

「あの・・・練習させてください」

 練習相手は当然一人しかいない。

「蓮見くん。そこ、早口すぎるよ」
「はい」

 アパートで縁美(えんみ)のダメ出しを聞きながら夜が更けていく。

「蓮見くん。意外と滑舌悪いね。動画はプレゼン画面で蓮見くんは声だけだからはっきり聞こえるように喋んないと」
「・・・なんか、幼稚園の時に親相手に劇の練習してたトラウマを思い出したよ」
「トラウマなの?」

 翌日、プレゼン動画が完成した。
 たった2分に全人生の全経験を注いだ思いだ。

「蓮見っち、お疲れ」
「蓮見せんぱい、よかったです」
「はは。ありがと」

 放心していると絵プロ鵜からLINEが入った。

絵プ:蓮見どの。これを進ぜよう

 掃除本気子さんのスタンプだった。
 わざわざ作ってくれたらしい。

 なかなかにかわいい。

 とりあえずスタンプをくっつけて縁美にお礼のLINEを送信した。
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