NINETY-EIGHT すれ違いとべったりとふたりはどっち?
文字数 1,008文字
「あれ?縁美 、今日は出勤だっけ?」
「そう。パートさんがふたりいっぺんにお子さんの授業参観で」
「そっか。じゃあ惣菜の作り置き、やっとくね」
「蓮見 くん、ごめんね。行ってきます」
こういうことはよくある。
縁美のスーパーマーケットは大資本じゃなくって先代の社長が個人の八百屋さんからスタートした1店舗しかない小さな会社なのでパートさんのシフト変更には正社員で対応せざるを得ない。
縁美のポジションは売り場にも出ればポップも書くしご高齢のお客さんの送迎から仕入れ商品の選定・惣菜のメニュー開発・店舗の掃除までをこなすオールラウンダー。
零細企業における典型的な正社員としての生態だ。
僕にしたって全社員が10人しか居ない超絶零細ビルメンテナンス会社なのでスポットの受注が入った時には土日深夜関係なく対応せざるを得ない。そうしないと受注そのものをよその会社に持ってかれてしまう。
だから、ふたりはすれ違う。
「は、蓮見くん」
「う、うん」
「なんか、久しぶりだね」
「ほんとだね、縁美」
「次の土日は?」
「出勤。そのまま4連勤して水曜休み」
「そっか・・・じゃ、行ってきます」
「うん。僕も行ってきます」
美咲 さんはこういう時鋭い。
「お、蓮見っち。どうやら縁美ちゃんの愛が足りてないようだねー」
「な、なんですか、美咲さん」
「サラトちゃんサラトちゃん。このふたりコウテンの周期がズレてる時期だから今がチャンスだよ」
「コウテン?」
美咲さんの学説によると僕と縁美は惑星同士で太陽の周りをぐるぐる回ってるのだそうだ。
普段は仲良くほぼ同じ軌道を動いているけれども時折ズレが生じるのだと。
「片方の軌道がなにかの拍子で少し上にブレたりしたらふたりの距離は離れていくのよ」
「美咲さん、『なにかの拍子』ってすごいアバウトですね」
「サラトちゃん。それが宇宙の神秘ってやつだよ」
「でも美咲さん。軌道が上にブレるって宇宙に上下とかあるんですか?」
「サラトちゃんサラトちゃん。そこが男女の神秘、ってやつよ。ふたりで居ると上下関係は避けられないのよ。どっちが上かは知らないけど。ね、蓮見っち?」
「やめてください」
「蓮見せんぱい」
「なに?サラトちゃん」
「わたしはせんぱいの衛星ですからずっと一緒です」
「なに言ってんの」
周期が重なった。
「うわー、やっと通常勤務だよー」
「お疲れ、縁美」
「蓮見くんもお疲れ様。ね、蓮見くん」
「なに」
「ベタベタしよっか」
「なに言ってんの」
「そう。パートさんがふたりいっぺんにお子さんの授業参観で」
「そっか。じゃあ惣菜の作り置き、やっとくね」
「
こういうことはよくある。
縁美のスーパーマーケットは大資本じゃなくって先代の社長が個人の八百屋さんからスタートした1店舗しかない小さな会社なのでパートさんのシフト変更には正社員で対応せざるを得ない。
縁美のポジションは売り場にも出ればポップも書くしご高齢のお客さんの送迎から仕入れ商品の選定・惣菜のメニュー開発・店舗の掃除までをこなすオールラウンダー。
零細企業における典型的な正社員としての生態だ。
僕にしたって全社員が10人しか居ない超絶零細ビルメンテナンス会社なのでスポットの受注が入った時には土日深夜関係なく対応せざるを得ない。そうしないと受注そのものをよその会社に持ってかれてしまう。
だから、ふたりはすれ違う。
「は、蓮見くん」
「う、うん」
「なんか、久しぶりだね」
「ほんとだね、縁美」
「次の土日は?」
「出勤。そのまま4連勤して水曜休み」
「そっか・・・じゃ、行ってきます」
「うん。僕も行ってきます」
「お、蓮見っち。どうやら縁美ちゃんの愛が足りてないようだねー」
「な、なんですか、美咲さん」
「サラトちゃんサラトちゃん。このふたりコウテンの周期がズレてる時期だから今がチャンスだよ」
「コウテン?」
美咲さんの学説によると僕と縁美は惑星同士で太陽の周りをぐるぐる回ってるのだそうだ。
普段は仲良くほぼ同じ軌道を動いているけれども時折ズレが生じるのだと。
「片方の軌道がなにかの拍子で少し上にブレたりしたらふたりの距離は離れていくのよ」
「美咲さん、『なにかの拍子』ってすごいアバウトですね」
「サラトちゃん。それが宇宙の神秘ってやつだよ」
「でも美咲さん。軌道が上にブレるって宇宙に上下とかあるんですか?」
「サラトちゃんサラトちゃん。そこが男女の神秘、ってやつよ。ふたりで居ると上下関係は避けられないのよ。どっちが上かは知らないけど。ね、蓮見っち?」
「やめてください」
「蓮見せんぱい」
「なに?サラトちゃん」
「わたしはせんぱいの衛星ですからずっと一緒です」
「なに言ってんの」
周期が重なった。
「うわー、やっと通常勤務だよー」
「お疲れ、縁美」
「蓮見くんもお疲れ様。ね、蓮見くん」
「なに」
「ベタベタしよっか」
「なに言ってんの」