NINETY-FIVE スイカつっくんとプンプンとどっち!?

文字数 1,072文字

蓮見(はすみ)くん、お帰りなさい」
「うん。今日も暑かったね」
「スイカあるよ」

 縁美(えんみ)が冷蔵庫からブロック状にカットされた冷え冷えのスイカを取り出した。
 スープ用の深皿に盛って出してくれた。

「今日も一日お疲れ様でした」
「ありがとう。いただきます」

 夕食前のささやかな贅沢。

 縁美も一緒にフォークでつついた。

「お塩は?」
「うーん」

 十分甘い。
 でも。

「かける」
「はい」

 ぱらぱらと四角い面に適量をふる。

「ねえ、縁美」
「うん」
「なんでスイカに塩をかけるんだろ」
「甘味が増すから、って昔から言われてるけど」
「なんか、違うような気がするんだよね。感覚としたらさ、トマトに塩をかけるような?」
「はっ」

 縁美のリアクションが大きくなる。

 目を、少女マンガの星が見えるぐらいに大きく開いて。

「そうだよ蓮見くん!スイカは・・・」

 ?

「野菜だよっ!」
「あ」

 そっか。

「縁美。果物と野菜の違いって?」
「木になるのが果物でそうじゃないのが野菜」
「そうだっけ」
「小学校の時にクラスの文集でね、好きな食べ物に『スイカ』って書いて、嫌いな食べ物に『野菜』って書いてた子がいたんだ。矛盾してるって男子の間では議論になってたよ」
「ちょっと待って。文集に好きな食べ物とか書くの?」
「そうだよ」

 文集もそうだけど、小学生の縁美を想像した。
 まだ背が低くてちっこい頃のアルバムとかないのかな?

「卒業アルバムは実家に帰ればあるんだけど」
「・・・じゃあ無理だね」

 まあ今の縁美を観ているだけで十分憩えるので贅沢は言わないことにする。

「蓮見くん。ウチのおばあちゃんスイカ作るのが上手でね」
「へえ」
「家の庭が全部畑だったんだけどね。夏の間じゅう毎晩食べてたよ」
「いいね」
「夏休みが終わり頃になるとね。ノルマが厳しくなって一人半個ずつとか」
「半個!?」
「でね。低学年の頃なんだけど・・・」
「うん」
「一回だけおねしょしちゃって」
「えっ・・・・・・誰が」
「わたしが」

 おお。

「ほとんど水分だもんね。しかもおばあちゃんがスイカは毒出しだって口癖だったぐらいで利尿作用があるから・・・蓮見くん?」
「あ、ごめん」
「?わたしがおねしょしたのがそんなに意外?」
「意外っていうか・・・なんだか縁美のすべてを知った、みたいで嬉しくて」
「・・・・・・・・・蓮見くん。言いたい感覚はなんとなくわかるけど」
「う、うん」
「ちょっとやだ」

 あ。
 さじ加減間違えたかな。

「蓮見くんに言わなきゃよかった」

 そのまま立ち上がってキッチンのシンクで皿を洗い始めた。

 スイカみたいな顔になってるけど、怒ってるのか、恥ずかしいのか。

 どっちだ。
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