138 羊羹とカステラならどっち?

文字数 1,034文字

 なぜ羊羹とカステラを比較対象とするのか。

 それは『ごめんなさい!』お菓子の和洋代表格だと思うからさ!

縁美(えんみ)のスーパーだったらクレームなんかに対するお詫びの菓子箱はどっち?」
「カステラだね。でもここだけの話だけど」
「うんうん」

 縁美の怪談話でもするようないかにもそれらしい口ぶりと表情に僕と絵プロ鵜(えぷろう)は引き込まれる。

「実は・・・・・・」
「うんうん」
「ウチの店の贈答コーナーに入れて貰ってるカステラは使わないの!」
「ええっ!?」

 大袈裟なやりとり。
 でも、雰囲気あるよね?

「なぜかね、縁美どの」
「絵プロ鵜ちゃん、それはね」
「うむ」
「美味しくないから!」
「うおおっ!?」

 まあ、多少の冗談も含めてるんだろうけど、要は通常グレードのカステラじゃなくワンランクかツーランク上のグレードのものとなると・・・残念ながら東京のデパートののし紙をかけた有名和菓子店のカステラじゃないと怖くて持っていけないということらしい。
 たとえばやっぱり銀座、とかそういう感覚なんだろう。

「蓮見くんの会社は?」
「羊羹かな」
「蓮見どの、なぜに」
「重量感があるから」

 あ・・・・なるほど、と縁美も絵プロ鵜も納得してくれた。
 それに羊羹ならば地元の老舗和菓子屋さんで絶対の信頼を置かれているお店があるので。

「ほんとはひとくち羊羹の詰め合わせなんかの方が食べる人からすればありがたいんだろうけど・・・もう、どうにもならない重大過失の案件の場合は有無をいわさず、ドーン!!、て感じで。一番大きいサイズの羊羹を3本、木箱にドン!ドン!ドン!て感じで」
「うわー。それはなんか圧倒されちゃうね・・・」
「和室ならば正座して両手をついて『つまらぬ菓子ですが!』ってすすす、と相手に押しやれば圧力満点!立ったまま渡すなら腰を90°折り曲げて頭頂部を相手に見せたまま両腕を真っ直ぐ突き出して『ほんの手土産ですが!』と手渡した瞬間に、ズドン!、て予想を遥かに超える重量で相手の手首が折れ曲がって・・・!」
「・・・・・・蓮見くん」
「え?」
「お仕事ほんとうにほんとうにお疲れ様・・・・・・・」

 ひとり笑いながら見ていた絵プロ鵜を僕は見逃さない。

「絵プロ鵜はどうなんだい」
(それがし)かね」

 ニヤリ、と見たことのない笑みを浮かべる絵プロ鵜。

「両方あげるさね」
「カステラと羊羹を!?」
「そうさね」
「ど、どこのやつ?」
「札束敷いたカステラ、小判敷いた羊羹のイラストをSNS上で某の漫画を酷評した相手のアカウントに送りつけるさね!」
「越後屋!!」
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