SIXTY-EIGHT 勝ちと負けならどちらに属す?

文字数 1,111文字

 負けるが勝ち。

 ばあちゃんは繰り返しこう言ってた。

 縁美(えんみ)のおばあちゃんもそうだって言う。

「さあ。誰を昇格させる?」
「決めなきゃいけないんですよね・・・わたしには荷が重いです」

 社長と美咲(みさき)さんのやりとりがなんとなく聞こえてしまった。
 一応会社組織なので給与体系っていうものがあるし。

 なかったとしても働いている社員に『雇用契約』を果たすために避けては通れない。

「俺はね。『いつも仕事頑張ってくれてありがとう』っていう気持ちを社員みんなに形として示したい、それだけなんだ」

 社長・・・・・

「縁美のスーパーは昇格の時期って決まってるの?」
「ううん。一応株式会社ではあるけどほとんど個人商店みたいなもんだから。20年間も部長を勤めてるひともいるし。蓮見くんの会社は?」
「どうも今がその時期みたい」
「わ。頑張ってね」
「うん。って、何をどう頑張ればいいんだろう」
「蓮見くんはいつも頑張ってくれてるから、いつもどおりに頑張ってくれればいいよ」
「難しいな」

 文学賞の発表。

 映画賞の発表。

 科学賞の発表。

 音楽賞の発表。

 なぜだかわからないけど、人事考課制度が導入されたらそれも勝敗が絡んだ競争ってことになるんだろう。そこから想像したのがこういう類のものばっかりだった。

「蓮見くん」
「はい。なんですか?社長」
「人事考課制度、導入やめようかと思って」

 あれ?

「でも社長。社員の何人かからも要望があったって聞きましたけど」
「そういう意見もあるけどさ。そもそも俺にひとを評価するなんて資格あると思う?」
「あの・・・僕は社長の評価なら多分納得すると思いますけど」
「いやあ。それはありがとうね。でも、やっぱりやめるよ」
「そうですか」
「それでね、蓮見くん」
「はい」
「主任になってくれるかな」
「主任、ですか?」
「そう。もちろん美咲ちゃんっていうベテランがいて彼女には現場のまとめ役を続けてもらうんだけど、ウチも受注によっては分担して複数の現場に行ってもらわなきゃいけない場面が出てくるからさ」
「はい」
「だから、主任。頼むよ?おーい、美咲ちゃん、サラトちゃん、みんなー」

 現場の面々を呼び集める社長。

「蓮見くんにさ、主任になってもらおうと思って。みんな、どうかな?」
「もちろん、OKですよ!蓮見さんは仕事は丁寧だしサラトちゃんっていう後輩ができて指導にも力を発揮してるし」
「美咲ちゃんは?」
「適任と思います。責任を持って仕事する姿勢を続けてきてますからお客様とのやりとりも任せられます」
「サラトちゃん。蓮見くんにひとこと」
「蓮見せんぱい。ついていきます」
「と、いうことだよ。蓮見くん。所信を述べてよ」

 わ。

「えっと・・・変わらずみんなで頑張りましょう」
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