163 無職と無色ならどちら?

文字数 1,127文字

 働かざる者食うべからず。

 申し訳ない。

蓮見(はすみ)くん・・・食欲ないね・・・」
「ごめん、縁美(えんみ)。なんだか食べる気がしなくて」
「今夜のごはん蓮見くんの好きなものにしようか。何がいい?」
「・・・・・・・・・お茶漬け」
「また・・・・・・」

 無職。

 今日も有給休暇を頂いてハローワークに行ってみる。

「あの・・・・・」
「はい」

 この間、中卒でも応募できるか企業に電話してくれた女性スタッフさんだ。

「お若いですね」
「いえ。もう成人してます」
「転職は初めてですか?」
「いえ。以前も何度か」
「そうですか。今の仕事はハローワークで?」
「いえ。その前の仕事を辞めなくちゃいけなくなった時に辞める会社の社長が紹介してくれて」
「今の社長さんにお願いできないんですか?」
「心当たりは持ってそうでしたけど、中卒っていう部分でやっぱり難しいみたいで」
「じゃあどうして今の社長さんはあなたを採用されたんですか?知り合いの紹介を無碍にできなかったから?」

 そう言えばどうしてだろう。

 でもその前にこの人はどうしてこんな話を僕にするんだろう。

武部(たけべ)さん。こっちを手伝ってくれないかな」
「あ。すみません。わたし、行きます。では」

 武部さんて言うのか。

 歳はいくつぐらいかな?いってても二十代終わりぐらいじゃないかな。

 いけないいけない。無職のクセに少しいい感じの女の人に話しかけられたからって浮かれてちゃダメだ。

 無職なんだから職探しに邁進しないと。

 夜は縁美がわざわざ茄子にベーコンを挟んだ天ぷらを揚げてくれたけど僕はひときれ摘んだだけで後は食べられなかった。

 また、朝。

「こんにちは」
「こんにちは」

 武部さんと挨拶を交わす。
 武部さんの方は僕の相談カードを見てるからわざわざ名乗る必要もない。

「いいのありましたか?」
「なかなか無いですね・・・やっぱり高校出ておけば良かったですかね」
「蓮見さん」

 初めて名前で呼ばれた。

「はい」
「もしよかったら転職に関する個別カウンセリングをお受け頂くこともできますよ」
「そうなんですか。カウンセラーの方が常駐しておられるんですか?」
「わたしがカウンセラーです」

「ただいま」
「あーお帰り蓮見くん。ねえねえ!」
「え?なに?」
「蓮見くんが本当にやりたいことって何?」
「・・・・今までやった職種の中にあるかなあ」
「そうじゃなくて」
「え?」
「仕事じゃなくて蓮見くんが本当に叶えたかった夢とか・・・そういうのも含めてちょっと探してみない?」
「探す?」
「うん」

 縁美はやっぱり縁美だ。

「無職は無色。わたしも有給取るから、何日か旅に出ない?これから蓮見くんの人生をどんな色に彩るかを探す旅!」

 武部さんのカウンセリングの予約を入れようか迷ってたけど。

 僕は縁美に予約を入れた。
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