173 往くか還るかどっちにしようか・・・・・・
文字数 1,263文字
昔見たアニメに永遠の前夜祭を夢見る少女が出てきた。
準備の途中。
ものごとを決める途中。
旅の、途中・・・・・・
「快晴だね」
「朝はね」
最後の宿泊先となったホテルは何年か前にこの地方初のロックフェスが開かれた時に唯一参加してくれたメジャーバンドが公演前夜の宿にしたという。
全員のサインが入ったメンバーの写真がロビーに置かれていた。
「この市の市長が夕べ電車で観た『ROCHAIKA-sex』にフェスへの参加をオファーしてるらしいよ」
「へえ・・・市長さん先見の明ありだね!」
チェックアウトして駅まで行って。
そして迷った。
ホームの真ん中に立って、どちらの白線の側に並ぶべきか。
「縁美 」
「?なに?蓮見 くん」
「帰りたくないな・・・・・」
「うん」
少しふたりして黙った。
10秒・・・
20秒・・・
30秒・・・・・・
将棋のテレビ中継で残り時間をカウントされるような感覚になった。
棋士の気持ち凡人知らずだけど。
「蓮見くん」
「うん」
「それでもいいよ」
「えっ」
「帰らなくてもいいよ。ほんとに蓮見くんがそうしたいのなら」
「でも、縁美は明日から仕事だよね」
「蓮見くんはそのまましばらく旅を続けて?青春18きっぷで。で、『ここに居るよ』って連絡くれたら休みの日にわたしが遭いに来るよ」
笑ってる。
「特急で」
「ふ」
「おかしい?」
「え。うん」
「わたしっておかしい女?」
「うん。おかしい。縁美らしくておかしい」
「ありがとう」
僕らは一緒に僕らの街への線路を選んだ。
「仕事は」
「うん」
縁美は頷いたけど僕の続きの言葉を急かさなかった。
待つのに飽きると車窓を見やり、ずっと遠くの森の紅葉し始めた木々を視力回復のためみたいに焦点を合わせずに見つめていた。
「仕事は」
「うん」
「仕事は・・・・・今の会社を退職する日までに決まったところにするよ。条件を変えてでも」
「いいの?」
「うん」
「もし聴かせてもらえるなら、蓮見くんの決める気持ちがどんなか教えて」
「うん」
「教えて欲しい」
「僕の根本は『ユズル』ってことだろうと思う」
「わたしもそう思う。蓮見くんは、『譲る』ひと」
「僕がしあわせの座席をひとつ埋めたら、もうひとりがあぶれるような感じがするんだ。ずっと前から。多分母さんが離婚して父さんと再婚するその前からも」
「うん・・・・・」
「だから、早く座席をひとつ増やしてあげたい」
「増やす?」
「うん。フルーツバスケットみたいなのはもういやなんだ」
「ふふ」
「なに?おかしい?」
「うん。今時『フルーツバスケット』って言っても何のゲームか誰も知らないと思うよ」
「知ってるよ」
「知らないよ」
「・・・・知らないのかな・・・」
「ほら、また譲った。やっぱり蓮見くんだ。でも、席を増やすって?」
「僕らの養子になってくれる子のシートをひとつ」
「・・・・・・・そうだね」
「そうするには、ひとりぶんの食べ物や本や音楽や・・・・僕らのココロ自身がゆったりとした愛情を持てるようなささやかな幸せを用意しなきゃいけない・・・・・・」
「わかったよ、蓮見くん・・・・きっとできるよ・・・・」
準備の途中。
ものごとを決める途中。
旅の、途中・・・・・・
「快晴だね」
「朝はね」
最後の宿泊先となったホテルは何年か前にこの地方初のロックフェスが開かれた時に唯一参加してくれたメジャーバンドが公演前夜の宿にしたという。
全員のサインが入ったメンバーの写真がロビーに置かれていた。
「この市の市長が夕べ電車で観た『ROCHAIKA-sex』にフェスへの参加をオファーしてるらしいよ」
「へえ・・・市長さん先見の明ありだね!」
チェックアウトして駅まで行って。
そして迷った。
ホームの真ん中に立って、どちらの白線の側に並ぶべきか。
「
「?なに?
「帰りたくないな・・・・・」
「うん」
少しふたりして黙った。
10秒・・・
20秒・・・
30秒・・・・・・
将棋のテレビ中継で残り時間をカウントされるような感覚になった。
棋士の気持ち凡人知らずだけど。
「蓮見くん」
「うん」
「それでもいいよ」
「えっ」
「帰らなくてもいいよ。ほんとに蓮見くんがそうしたいのなら」
「でも、縁美は明日から仕事だよね」
「蓮見くんはそのまましばらく旅を続けて?青春18きっぷで。で、『ここに居るよ』って連絡くれたら休みの日にわたしが遭いに来るよ」
笑ってる。
「特急で」
「ふ」
「おかしい?」
「え。うん」
「わたしっておかしい女?」
「うん。おかしい。縁美らしくておかしい」
「ありがとう」
僕らは一緒に僕らの街への線路を選んだ。
「仕事は」
「うん」
縁美は頷いたけど僕の続きの言葉を急かさなかった。
待つのに飽きると車窓を見やり、ずっと遠くの森の紅葉し始めた木々を視力回復のためみたいに焦点を合わせずに見つめていた。
「仕事は」
「うん」
「仕事は・・・・・今の会社を退職する日までに決まったところにするよ。条件を変えてでも」
「いいの?」
「うん」
「もし聴かせてもらえるなら、蓮見くんの決める気持ちがどんなか教えて」
「うん」
「教えて欲しい」
「僕の根本は『ユズル』ってことだろうと思う」
「わたしもそう思う。蓮見くんは、『譲る』ひと」
「僕がしあわせの座席をひとつ埋めたら、もうひとりがあぶれるような感じがするんだ。ずっと前から。多分母さんが離婚して父さんと再婚するその前からも」
「うん・・・・・」
「だから、早く座席をひとつ増やしてあげたい」
「増やす?」
「うん。フルーツバスケットみたいなのはもういやなんだ」
「ふふ」
「なに?おかしい?」
「うん。今時『フルーツバスケット』って言っても何のゲームか誰も知らないと思うよ」
「知ってるよ」
「知らないよ」
「・・・・知らないのかな・・・」
「ほら、また譲った。やっぱり蓮見くんだ。でも、席を増やすって?」
「僕らの養子になってくれる子のシートをひとつ」
「・・・・・・・そうだね」
「そうするには、ひとりぶんの食べ物や本や音楽や・・・・僕らのココロ自身がゆったりとした愛情を持てるようなささやかな幸せを用意しなきゃいけない・・・・・・」
「わかったよ、蓮見くん・・・・きっとできるよ・・・・」