204 病気とビョーキならどっち?

文字数 1,158文字

 持病がある人は大変だ。

 ストイックに摂生している迫田(さこた)さんですら内臓の病気じゃないけど爆弾を抱えている。

「左肩を随分前に痛めてね。肩から連動して二の腕を背中側にちょっと曲げただけで激痛が走るんだよ、蓮見(はすみ)さんよ」
「作業中に痛めたんですか?」
「そうだよ」
「迫田さんでもそんなことがあるんですね」
「その時働いてくれてた若い子が屋根から転落してね。俺が下に回って自分の体をクッションみたいに挺した時に左肩を打ってね・・・」
「そんな大変なことが・・・その若い方はどうなったんですか?」
「奇跡的に捻挫だけでね・・・まあ身代わりになった俺の方がずうっと肩をだましだまし使う境遇になるのも変な感じはするけど」

 そして迫田さんはこう言った。

「それがきっかけで一棟建ての大工からエクステリア専門に切り替えたんだ・・・いいか悪いかは別としてまあその子のお陰で今の俺だ、ってことだ」

 その後で、更に『職人』であり『個人事業主』であることの本質を告げられた。

「代わりが居ないのさ、自分以外。サラリーマンだって体が資本なのはもちろんだけど俺らはもっとだよ」

 更に核心を。

「職人とかは稼げる時に稼いで貯金するのが生きる方法だったのさ。利子である程度生活できたからね」
「えっ、利子で?」
「蓮見さんはもうそういう感覚がわかんないだろうね・・・今はゼロ金利だからね。年取るまで安定して働ける職業が偉くて俺らみたいな腕一本の人間が・・・文字通り俺みたいに左腕が思うようにならなくなったらどうなるか・・・」

 そして大工仲間にはガンなどの病気で仕事ができなくなったひとたちも居て、利子がつかないことの罪を嘆いた。

「病気って、辛いですね・・・」
「あ。でも待ってね蓮見さんよ。ひとり病気でもお気楽な奴がいたな。ほら帰ってきた」

 真直(まなお)ちゃん。

「ようよう蓮見さんよう。今日もシケてるねー、ひゃひゃひゃ」
「・・・・・あの、この子のどこが病気なんですか?」

 僕が訊くと迫田さんはこう言った。

「ビョーキだろうが、こんなモン」

 ああ。
 確かに真直ちゃんはビョーキだ。

「おじいちゃんも蓮見さんもひどいねえ」
「やかましいよ。真直は性格がビョーキなんだよ」

 いや、違いますよ迫田さん。

「・・・・・真直ちゃんは、人格がビョーキです」

 夜、アパートに帰って縁美(えんみ)にこの話をしたらかなりウケていた。

「ふ。真直ちゃんも災難だったんだね」
「縁美。真直ちゃんが被災するんじゃないからね。真直ちゃんそのものが災難なんだからね」
「また・・・・・」

 ふたりで詮ないことを話し合った。

「病気持ちだとしたら何がオシャレかな」
「縁美も変わった発想するね・・・胆石とかどう?」
「蓮見くんなかなかやるね。ならわたしは・・・・」

 縁美思案数秒。

「ノーマルに神経性胃炎かな」

 ノーマル・・・・?
 ・・・・ビョーキ?
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