NINETY-THREE 夏休み最後の夜は笑う?泣く?どっち!?

文字数 1,090文字

 お盆も縁美(えんみ)はスーパーの仕事が忙しくて休みは細切れだったし、僕の実家の墓参で両親と鉢合わせしてしまったダメージ等で休みどころじゃない感じになった。

 とは言いながら縁美と一緒にかき氷を作ったりみんなでお化け屋敷に行ったりホタルを観に行ったり。

 なかなかに充実していたと思う。

 なのでいつも通りの日曜の夜の感覚で僕らは安らかに過ごした。

蓮見(はすみ)くん、楽しかったね」
「うん・・・ならば嬉しいけど」
「楽しかったよ。すごく」
「ウチの親と遭ったのは・・・嫌だったでしょ」
「でもお父さまとお母さまのお怒りは当然だもん。わたしはそれだけのことをやったっていうことだから」
「これからどうしようか」
「さあ・・・蓮見くんはどうしたい?」
「できれば」
「うん」
「できれば縁美を・・・その・・・」
「うん」
「正式な伴侶、ってことで親にも親戚にも認めさせたい」
「うんうん!そうだよね!」

 縁美が僕の背後からぶっつかってきて、僕は彼女の保ったスピードによって、ばふっ、と布団の上に腹ばいに倒れ込んだ。

「蓮見くん。どうすればわたしはお父さまやお母さまに認めて貰えるかな?」
「あのさ。ウチの両親もそうだけど・・・縁美のご両親が今僕を見つけたら殺そうとするでしょ?」
「殺すは大げさだよ」
「でも、『この誘拐犯め!』ぐらいの勢いだよね?」
「誘拐って・・・誰が誰を?」
「僕が縁美を」
「誘拐した?」
「そう」
「ふ、ふふふ!じゃあわたしは囚われの身として5年間の幽閉生活を送ってきた、憐れな女、って設定?」
「薄幸の美少女・・・」
「蓮見君。ちょっとその言い方は」

 恥ずかしい、と縁美は拒否した。

 縁美が眠った後も僕は寝付けなかった。

 明日からのまた普通通りの仕事のことを思ってというよりは僕と縁美の復権について思いを巡らせている。

「たとえば、孫でもできたならば、孫可愛さになんとなくいがみあいが溶けていくものかな」

 でも、それもかなわぬ話だ。

「子供、欲しいな」

 僕はベランダで月の青い光で皮膚を青白く潤わせながらつぶやいていた。

「わたしだって、欲しいよ」

 縁美も起きて、僕の隣に歩いてきた。

 ふたりしてパジャマ姿でベランダの風に吹かれる。

「どうすれば、子供、できるかな?」

 僕が縁美につぶやくと速やかに答えが返ってきた。

「コウノトリ」
「また・・・」

 でも、僕はどうしてかこの縁美のファンタジーを否定する気になれなかった。
 もしかしたら・・・

「縁美」
「はい」

ができないままに子供ができてもいい?」
「え・・・・・・それはちょっと残念」

 僕は実は答えが出そうなんだけど・・・・・・
 もうしばらく縁美には言わないでおこう、と思う。
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