254 「パーっと」と「ちびちび」ならどっち?
文字数 1,096文字
「おごるさね」
「え、絵プロ鵜 ちゃん、無理しないで」
「無理じゃないさね縁美 どの。蓮見 どのを労いたいのさね」
「ありがとう」
僕は遠慮なく絵プロ鵜の歓待を受けることにした。場所は和牛しゃぶしゃぶのお店。
『高いんじゃないの?』
『そうでもないさね』
そうでもあった。
「まずは前菜です。牛のしぐれ煮を湯葉で和 えた酢の物です」
「前菜も肉かね!」
僕らが一人一枚ずつ受け取ったお品書きは箸休めの献立も抜かりなく肉が使われていて、多分今まで食べた料理の中でも最も高級な部類に入ると肌感覚で分かった。
ただ。
「ふむう・・・・・・少なくないかね?」
「絵プロ鵜ちゃん。美味しさが極限だから少量で精神的に満足できてるかな、って思うけど」
「縁美どのはそうかね。蓮見どのは?」
「純粋に量の話なら確かに少ない」
「うむ」
「だけど、『ははあ!』って恐れ入るみたいに有り難く頂くって感じかな」
「よく分かるさね」
コースのメインが出てきた。
「しゃぶしゃぶ。確かに見事な霜降りだけど」
ひとり3枚。
「うーん。この幸せをできれば5枚分。もっと言えば10枚でも20枚でも味わいたいさね!」
「そうだね。そんな贅沢してみたいね」
「いや。十分贅沢だよ。別世界ほどに。絵プロ鵜、ありがとう」
この店は絵プロ鵜がデビューした時に初めて担当してくれた編集さんが連れてきてくれたのだそうだ。
その出版社は今連載しているメジャーな所じゃなくて、ほとんどインディー系の尖った漫画ばかり掲載されてて当時の編集さんも決して高給取りじゃなかったけど奮発してくれたのだという。
絵プロ鵜は僕を心底労ってくれた。
「蓮見どのは偉いさね。何の見返りも無いどころか自分の大切な仕事すら休みを取ってそのいじめに遭っている男の子を救ったさね」
「いや。結局いじめに遭ったその子が転校することになったんだから、僕は負けた、ってことになるんだろう」
「『負けた』ことがとても重要さね」
絵プロ鵜は正直な人間なので気休めに発言してる訳じゃないことは伝わってきた。
彼女はこう言ってくれた。
「『どうなっても構わない』と思えることが尊いさね」
これは本当に光栄なことなんだけど絵プロ鵜が今プロットを練ってる漫画の主人公のイメージと僕が重なったんだと言う。
正義を掲げる主人公。
齢90のおじいちゃんって設定だけど。
会計を済ませて店の外に出た。
15歳の時からずっと一緒にいる縁美と絵プロ鵜が誰からも褒められない僕の行動を讃えてくれたんだから。
僕はなんだか嬉しくて言ってしまった。
「少し食べ足りないよね。ぱーっと二次会行かない?僕がおごるから」
「何かね?」
「牛丼」
寒空に三人して笑った。
「え、
「無理じゃないさね
「ありがとう」
僕は遠慮なく絵プロ鵜の歓待を受けることにした。場所は和牛しゃぶしゃぶのお店。
『高いんじゃないの?』
『そうでもないさね』
そうでもあった。
「まずは前菜です。牛のしぐれ煮を湯葉で
「前菜も肉かね!」
僕らが一人一枚ずつ受け取ったお品書きは箸休めの献立も抜かりなく肉が使われていて、多分今まで食べた料理の中でも最も高級な部類に入ると肌感覚で分かった。
ただ。
「ふむう・・・・・・少なくないかね?」
「絵プロ鵜ちゃん。美味しさが極限だから少量で精神的に満足できてるかな、って思うけど」
「縁美どのはそうかね。蓮見どのは?」
「純粋に量の話なら確かに少ない」
「うむ」
「だけど、『ははあ!』って恐れ入るみたいに有り難く頂くって感じかな」
「よく分かるさね」
コースのメインが出てきた。
「しゃぶしゃぶ。確かに見事な霜降りだけど」
ひとり3枚。
「うーん。この幸せをできれば5枚分。もっと言えば10枚でも20枚でも味わいたいさね!」
「そうだね。そんな贅沢してみたいね」
「いや。十分贅沢だよ。別世界ほどに。絵プロ鵜、ありがとう」
この店は絵プロ鵜がデビューした時に初めて担当してくれた編集さんが連れてきてくれたのだそうだ。
その出版社は今連載しているメジャーな所じゃなくて、ほとんどインディー系の尖った漫画ばかり掲載されてて当時の編集さんも決して高給取りじゃなかったけど奮発してくれたのだという。
絵プロ鵜は僕を心底労ってくれた。
「蓮見どのは偉いさね。何の見返りも無いどころか自分の大切な仕事すら休みを取ってそのいじめに遭っている男の子を救ったさね」
「いや。結局いじめに遭ったその子が転校することになったんだから、僕は負けた、ってことになるんだろう」
「『負けた』ことがとても重要さね」
絵プロ鵜は正直な人間なので気休めに発言してる訳じゃないことは伝わってきた。
彼女はこう言ってくれた。
「『どうなっても構わない』と思えることが尊いさね」
これは本当に光栄なことなんだけど絵プロ鵜が今プロットを練ってる漫画の主人公のイメージと僕が重なったんだと言う。
正義を掲げる主人公。
齢90のおじいちゃんって設定だけど。
会計を済ませて店の外に出た。
15歳の時からずっと一緒にいる縁美と絵プロ鵜が誰からも褒められない僕の行動を讃えてくれたんだから。
僕はなんだか嬉しくて言ってしまった。
「少し食べ足りないよね。ぱーっと二次会行かない?僕がおごるから」
「何かね?」
「牛丼」
寒空に三人して笑った。