EIGHTY-SEVEN 直線と曲線、どっちがかわいい?

文字数 610文字

 布団に入る前、なんとなく僕と縁美(えんみ)は一緒に歯磨きする。

「はふひふん。はひひへふほ?(蓮見(はすみ)くん。何観てるの?)」
「へふひ。(別に)」

 僕は縁美の頬を観てた。

 15歳の時から既に長身でシャープなフォルムの縁美だったけど、頬をつつくと、ぷに、とした。

「遊ばないで」

 とその度に縁美は笑った。

 今でもそうかな。

「あ」

 まだ歯磨きしている縁美の左頬を、ふたりして映っている洗顔台の鏡でバレバレの状態のまま指でつついた。

「ほふ(もう)」

 そのまま口をゆすぐ彼女。

「蓮見くんたら」
「ほへんほへん(ごめんごめん)」

 僕も口をゆすいだ。

 僕の意思を感じ取って、縁美はひざを少しだけ曲げてくれた。

 位置の低くなった縁美の髪を後ろからマフラーのようにして僕はくるんだ。

「あのさ」
「うん」
「好きだよ」
「わ」
「なに」
「蓮見くんから言ってくれたの、久しぶりだね」

 僕らは鏡に映ったふたりの表情を観ながら愛をささやき続ける。

「縁美は?」
「言わなくてもわかるよね?」
「言ってほしい」
「・・・・・・す」

 す。

「数学」
「・・・・・・」
「ごめんごめん。す・・・・」

 す?

「スシ食いねえ」
「・・・ノーセンス」
「ふふ。す・・・・・」

 す・・・・・

「き・・・・・・」
「つなげて」
「・・・・・・好き・・・」

 縁美は見つめてると直線なんだけど、触れると曲線なんだ。

 それはやっぱり15歳の時から変わってない。

 多分、このまま歳を重ねても、最期までそうなんだろうと思う。
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