TWENTY 叱責とねぎらいとどっち?

文字数 1,091文字

「バシッと質問に応えんか!」
「・・・すみません」
「はー。頭悪い」

 その小柄で小動物のような目をした偉いひとが痩せた、けれども眼が据わった中間管理職と思しきひとを侮辱していた。
 そう、僕には侮辱としか取れなかった。

「作業、続けようか」

 美咲(みさき)さんが言った。

 今日の午後は土砂降りで僕らは中堅製菓メーカーの本社ビルへダクト清掃作業に来ていた。
 三春(みはる)ちゃんが僕に言った。

蓮見(はすみ)せんぱぁい。なんであの陰険リス目は怒鳴ってたんですかぁ?」
「陰険リス目って・・・」

 うまいこと言う、と思ったけど一応僕らのクライアントだ。思い直して僕は返した。

「情緒不安定なんだよ、きっと」

 作業の間中、ヤクインと思われるその男の叱責は続いた。
 いや、叱責なんてものじゃなく、それはいたぶりだった。
 時折、『はあーあ』ととても大きな音のため息をつきながら、自分のデスクの前に立つ中間管理職の自尊心を損ねることが彼の目的みたいだ。

「美咲さぁん。あの

がかわいそうですよぉ。あんなのやっつけましょうよぉ」
「後でアイス買ってあげるから仕事して」
「わ。頑張りますぅ!」

 僕らは淡々と仕事した。ダクトの中は蒸して、汗がにじむ。

「終わりました。こちらにサインをお願いします」

 美咲さんはヤクインから叱責を受けていた管理職に横から声をかけた。

「あ、すみません。今」
「おい!俺の話の途中だぞ!」

 そう言ったところでオフィスの入り口近くに座っていた若い女子社員が立ち上がった。

「専務。お客様の前です。お静かになさってください。課長、わたしが代わりにお客様にご対応しましょうか?」
「あ、ああ。ありがとう、お願いします。すみません、彼女に書類をチェックして貰っていただけますか?」
「はい、分かりました」

 美咲さんがそう言って歩き出そうとすると、『専務』が俄かには意味不明のことを言った。

「掃除屋のどこが

だ!?」
「専務」

 反射的に躊躇せずに発言したのは、課長だったんだ。

「謝罪を」
「な、なんだと!?」
「この清掃スタッフさん方は当社のお取引先であり、つまりはお客様です。どうぞ謝罪を」
「なんで俺が」
「・・・・・ならば代わりにわたしが謝ります。申し訳ありませんでした。作業、お疲れさまでした」

 美咲さんがまるで応援団の返礼のように課長に語りかける。

「いつもご贔屓いただきありがとうございます。失礼いたします」

 アパートに帰って今日のことを縁美(えんみ)に話した。

「ふうん・・・そっか。蓮見くんたちも仕事、大変なんだね」

 縁美はそう言って、僕の前だからと欠伸を堪えてそのまま続けた。

「その専務さんは、ウチのスーパーに来るクレーマーさんみたいだな・・・」


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