259 スキーとソリならどっち?

文字数 1,157文字

蓮見(はすみ)くぅん!早く早く!」
「う、うん・・・・・・・」

 スキーなんて小学生以来だ。
 といってもスキー場へ行ったこともなく、スキー道具を買ったこともなく、今こうしてほぼ10年ぶりぐらいに長靴のまま装着して滑るプラスチック製のミニスキー。

「こんな急だったっけ・・・・」

 場所は一級河川の土手。雪が積もった即席スキー場に近所の子供たちもスキーやソリに興じている。

 転んだところで下は雪なんだけど滑降のスピードそのものが僕は好きになれない。

「蓮見お兄ちゃぁん、早くぅ!」

 縁美だけでなく真直(まなお)ちゃんの従姉妹で4歳の捻美(ひねみ)ちゃんも来ているんだ。というか、捻美ちゃんがスキーもソリもやったことがないっていうから用事のある真直ちゃんに代わって僕と縁美で連れて来てあげたんだけど・・・

「よ・・・と・・・」

 僕は視線を遠くし、恐怖心を消そうと試みる。
 できることならば今からでもやめたいけどまた催促された。

「蓮見お兄ちゃん、怖いのかな?」
「あー。きっとそうだねー!」
「こ、怖くはない!」
「じゃあ、おいで?」

 縁美が下で両手を広げてみせる。
 真似して捻美ちゃんもいっぱいに広げる。

「どうぞご加護を・・・・・・」

 僕がすごく大袈裟な祈願をして決断したことをふたりはわかっているんだろうか?

「う・・・・・く・・・・」

 安物のミニスキーなのに驚くほど板の材質が滑らかで想像以上に加速する。とにかく腰が引けたらあっというまにひっくり返るというのは小学生の時の経験で嫌というほどわかっているからなんとかビビらないように踏ん張る。

「わあ!蓮見お兄ちゃん、直滑降だ!」
「すごいすごい!」

 土手のミニスキーにパラレルもターンもないだろう!

 と叫ぶことすらできない切羽詰まった状況の中、小学生の時のデジャブじゃないかと思えるほど寸分違わず同じ軌道を辿った。

 なぜか右足が浮くような感じになって・・・・・
 左側に曲がって転ぶ!

「わあっ!」

 ザシャ!

「さすが蓮見くん。わたしたちを守ろうとして避けてくれたんだね」
「蓮見お兄ちゃん、やっぱり男の子!」

 そろそろ空も暗くなり始めたので最後にソリで三人乗りして滑って終わることにした。

「捻美が先頭!」
「縁美が真ん中!」
「蓮見がドンけつ」

 ぷふっ、と笑うふたり。

「わ、笑わないでよ。ところでどこの国にする?」
「蓮見くん、なにそれ?」
「ボブスレーごっこ」
「蓮見お兄ちゃん、子供〜!」

 非難は浴びたけど、ふたりの女子も助走をつけて・・・・

日本(にっぽん)ファイト!」

 と滑空した。

 順調に加速して・・・・・・

「ヤッホー!」

 お決まり通り転倒して三人で雪にまみれた。

「蓮見さん、縁美さん、ありがとね」

 土手の上に真直ちゃんが迎えに来た。
 彼女は捻美ちゃんに声をかける。

「ふたりの子供役ごくろうさん」
「うん。上手に甘えるのって大変だねー」
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