257 気休めと着痩せならならどっち?

文字数 1,189文字

 今年何回目かの大雪で各事業所『早めの帰宅を』号令が出て早々にアパートに帰ったんだけど・・・・・

 縁美(えんみ)が呻いている。

蓮見(はすみ)くん。わたし、太ったと思う?」
「ううん」

 即答する僕。一旦は否定する姿勢をとってみたけど。

「忖度しなくていいからね。本当のこと言って?」
「うーん・・・元々背が高くてスリムだから・・・」
「蓮見くん、わたしが着痩せするタイプだって気付いてるでしょ?」

 それは分からないけど確かに縁美は小顔で輪郭もシャープだ。誤解の無いように伝えてみた。

「僕は痩せてると思うけど縁美本人の自覚の問題だよね」
「蓮見くんの意地悪」

 縁美はそのまま部屋着のセーターを脱ぎ始めた。

「ちょ、ちょっと」
「蓮見くん。(つま)んでみて」

 ええっ?

 セーターの下に着ていたロンTも脱いで上半身はHATE-TEC(嫌悪テックってなんだ)の白くて柔らかな長袖インナー姿になった。

「はい」
「はいって言われても・・・・・」

 たくし上げて縁美のおヘソが見えてる腹部はぺたんこでジーンズのウエストと下腹部の間にも十分な隙間がある。

 試みにおヘソの下あたりを親指と人差し指で挟んでみようとするけれど。

「摘めないよ」
「じゃ、じゃあ、背中は?」

 くるん、と後ろを向いてHATE-TECをたくし上げたままで腰のくびれの辺りを僕に見せつける。

 僕は怖い。
 彼女に自覚があるということは、もしかしたら背中ならば摘めてしまうかもしれない。
 もしそうなったら・・・・・・・

「え、縁美」
「なに」
「や、やめようよ」
「今さら」
「僕は審判を下したくない」
「やって」

 潔い・・・のかな?

「・・・こんな感じ」
「やっぱり!」

 実際には肉を摘んだというよりも皮膚を少し摘めた程度で太ったのかどうかはっきり言って僕には分からない。ただ、縁美は即行動しないと納得できないようで、すぐさま床に仰向けになった。

「蓮見くん。もしわたしを憐れに思うなら一緒にやってくれない?」
「?」

 縁美は頭頂部から体幹、お尻からハムストリングスを経てふくらはぎまでの直線に近い美しい曲線で造られた四肢のつま先までを美しく伸ばして仰向けになった。僕も彼女のつま先に自分のつま先がくっつくぐらいの距離で、つまり向かい合うようにして仰向けになった。

「反動つけずに踵を速いモーションで30cm上げてゆっくり降ろすの」
「うんうん」
「それを100回」
「100回!」

 脚を上げる毎にお腹がよじれるように苦しい。ただ、確かにこの運動だと単に腹筋だけでなく、腰回り全体が絞られて硬くなるような気がする。

「はっ、はっ、100・・・・・回!」
「続けて2セット目」
「うっ・・・・・・」

 腰を痛めないように背中を丸めて視線はつま先を見て。

 結局3セット計300回やった。
 直ぐに縁美はオーダーする。

「摘んでみて」
「・・・・・・・皮も摘めない」
「やった!蓮見くん、しばらく毎日付き合ってね!」
「嫌だ」
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