267 対立と融和ならどちらが・・・いいんだろうね
文字数 1,124文字
火曜日。
平日だけど僕は夜に実家を急襲した。
「帰れ」
「父さん。帰れと言うなら事務連絡だけして帰るよ」
「事務連絡だと?」
玄関にすら入らずにドアの手前で僕は真直 ちゃんを養子にする手続きに入ったことを伝えた。
「ふ。とうとう本当に犬猫を拾ったか」
「犬猫を捨てる人間に僕はなりたくない。ましてや人間を捨てる人間には」
僕は父親の眼の奥のその奥の眼底を観るようにして言った。
「絶対になりたくない」
「俺がお前を捨てたというのか」
「捨てたに等しい、と僕は感じている」
「お前が勝手に離れて行ったんだろうが」
ケンカというよりも愚痴の言い合いになりそうになった。
だから僕は父親にとっては取るに足らないことかもしれないけど、僕にとっては重要な実家でのエピソードを持ち出した。
父親兄弟はそれぞれ祖父母が所有していた土地を相続して自宅を建てている。この間亡くなった叔父さんが受け継いだ土地に家を建てる時、植っていたカシの木を伐採するかどうかという話になった。
「叔父さんはカシの木を切るのを嫌がったよね?なぜかっていうとおじいちゃんたちがこの地に移って来た時に家が栄えるようにって植えた木だからって」
「そういえばそうだったかな」
「叔父さんは『そういう先達の思いが籠った木を切るのは忍びない。それにこんなに大きくなったら木の精のようなものが宿ってると思う』って嫌がったけど父さん許さなかったよね。『俺の言うことが聞けないのか』って」
「まあアイツの兄貴だからな一応」
「父さんは木を植えたおじいちゃんとおばあちゃんを否定したかっただけでしょ?」
「非合理なんだよ。先達の想い?木の精?バカバカしい」
「だからだよ」
「何がだ」
「僕は叔父さんが木を切りたくない気持ちの方が合理的だと思う。僕が養子を迎えるのも合理的だと思ってる」
「どう転んだらアイツやお前が合理的ってことになるんだ」
「何十年か経てば証明できる」
「ふっ。そんな先の話」
「だから父さんには永遠に理解できない」
訣別。
15歳の時にとっくに訣別してたけど、僕はほんの15分ほどのやりとりを終えてアパートに帰った。
実は縁美 も同じことをしてて、先に帰ってた。
「蓮見くん。お父様に遭えた?」
「うん。でも何も変わってない。一方的に報告だけした。縁美は?」
「『養子を迎えるって法律上どういうことなんだ』って何度も訊かれたよ。法律上は蓮見くんが親であってわたしには特に扶養義務はないって言ったらね」
「うん」
「お父さんは黙ったまま。お母さんはね『よかった。それならよかった、安心した』って言って・・・・・泣いてた」
縁美は申し訳なさそうな顔をしてやっぱり涙を滲ませたけど、僕はこう言ってあげたんだ。
「ご両親は縁美のことが大切なんだよ」
平日だけど僕は夜に実家を急襲した。
「帰れ」
「父さん。帰れと言うなら事務連絡だけして帰るよ」
「事務連絡だと?」
玄関にすら入らずにドアの手前で僕は
「ふ。とうとう本当に犬猫を拾ったか」
「犬猫を捨てる人間に僕はなりたくない。ましてや人間を捨てる人間には」
僕は父親の眼の奥のその奥の眼底を観るようにして言った。
「絶対になりたくない」
「俺がお前を捨てたというのか」
「捨てたに等しい、と僕は感じている」
「お前が勝手に離れて行ったんだろうが」
ケンカというよりも愚痴の言い合いになりそうになった。
だから僕は父親にとっては取るに足らないことかもしれないけど、僕にとっては重要な実家でのエピソードを持ち出した。
父親兄弟はそれぞれ祖父母が所有していた土地を相続して自宅を建てている。この間亡くなった叔父さんが受け継いだ土地に家を建てる時、植っていたカシの木を伐採するかどうかという話になった。
「叔父さんはカシの木を切るのを嫌がったよね?なぜかっていうとおじいちゃんたちがこの地に移って来た時に家が栄えるようにって植えた木だからって」
「そういえばそうだったかな」
「叔父さんは『そういう先達の思いが籠った木を切るのは忍びない。それにこんなに大きくなったら木の精のようなものが宿ってると思う』って嫌がったけど父さん許さなかったよね。『俺の言うことが聞けないのか』って」
「まあアイツの兄貴だからな一応」
「父さんは木を植えたおじいちゃんとおばあちゃんを否定したかっただけでしょ?」
「非合理なんだよ。先達の想い?木の精?バカバカしい」
「だからだよ」
「何がだ」
「僕は叔父さんが木を切りたくない気持ちの方が合理的だと思う。僕が養子を迎えるのも合理的だと思ってる」
「どう転んだらアイツやお前が合理的ってことになるんだ」
「何十年か経てば証明できる」
「ふっ。そんな先の話」
「だから父さんには永遠に理解できない」
訣別。
15歳の時にとっくに訣別してたけど、僕はほんの15分ほどのやりとりを終えてアパートに帰った。
実は
「蓮見くん。お父様に遭えた?」
「うん。でも何も変わってない。一方的に報告だけした。縁美は?」
「『養子を迎えるって法律上どういうことなんだ』って何度も訊かれたよ。法律上は蓮見くんが親であってわたしには特に扶養義務はないって言ったらね」
「うん」
「お父さんは黙ったまま。お母さんはね『よかった。それならよかった、安心した』って言って・・・・・泣いてた」
縁美は申し訳なさそうな顔をしてやっぱり涙を滲ませたけど、僕はこう言ってあげたんだ。
「ご両親は縁美のことが大切なんだよ」