188 人生設計と家族計画ならどっち?

文字数 1,113文字

 家族計画というとバースコントロールを指すみたいだけど。

 僕が意味するのは家族

計画とでも言いたい。

蓮見(はすみ)さんよ。カネじゃないさ。でもやっぱりカネさ」

 格子戸の工事をしに出掛けた施主さんの現場で迫田(さこた)さんが迫田さんらしくないことを言うと感じた。

 でも、やっぱり深い。

「俺たちが施主さんや元請け業者さんにいくらで工事を提供するかっていういわゆる『値決め』はね・・・・・経営の根幹ともいえるのさ」
「コストをきちんと把握して・・・・・赤字を出さないっていうことですか?」
「もちろんそれもある。でも値決めはつまり経営者の意思さ。『この価格に見合う品質の仕事をします』『このコストを無駄にはしません』・・・そういうことさ。それからもっと大事なことがあるよ」

 なんだろう?

「子供を飢えさせないことさ」

 迫田さんがゆっくりと、けれども自信をもってそう言った。
 それから苦笑いしながらこうも言った。

「ウチの真直(まなお)なんぞいくら食わせても『腹ペコだ!』って言ってやがるからね」
「おじいちゃん!おやつは!?」

 学校から帰って来た真直ちゃんはどうして作業場にそう訴えかけてくるんだろう。

「蓮見さん。お客さんの所で出してもらったお茶菓子あるでしょぉー?」
「なるほど・・・・・・・・はい」
「うわ!梅干し入りの大福!」
「こら真直」
「なに?おじいちゃん」
「このお菓子はお客さんから蓮見さんにいただいたんだ。縁美(えんみ)さんのお土産に持って行ってもらわないといかんだろ?」
「ふむう。ならばわたしは何を食べればいいの?」
「俺のをやるから何も食うな」
「毎度あり・・・・・はっ」
「な、なんだ?」
「今気が付いたけど、『毎度あり』って『毎度ありがとう』の略なんじゃない!?大発見じゃない!?」

 縁美に梅干し入り大福を持って帰った。

「おカネ、貯めないとね」
「5年の間にね」

 特別養子縁組は夫婦じゃないと養子を迎えられない。
 更に夫婦の内の少なくとも一人が25歳以上じゃないといけない。

 同い年の僕らだから2人して25歳にならないと養子を迎えられないってことだ。
 だから僕らは5年間で人生の基盤を作ることを考えている。

「蓮見くん。おカネって大事だね」
「そうだね」
「でもおカネが目的じゃないよね」
「そうだね・・・・」

 収入の話だけじゃなくて、5年間の間に僕らは例えば職場での立場も変わっていくだろう。

 縁美だったら今やっているいくつかの部門の責任者としての立場が更に重いものになって行くかもしれないし。

 僕だったら大工としての技術の習得と・・・・・もしかしたら『独立』って可能性がゼロではないだろう。

「蓮見くん」
「なに?縁美」
「人生とか、家族とか、おカネに左右されるのって、なんか嫌だね」
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