FORTY-FIVE 映画と音楽どっちがメイン?
文字数 1,032文字
「よかったね、蓮見 」
「うん」
これが中三の終わり、僕と縁美 初デートの会話だ。
地元の名画座で「プリティ・イン・ピンク」という映画を観た。
ちょうど1980年代の映画特集を日替わりでやってて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の翌日がこの映画だった。
公開当時アメリカでティーンの女王と呼ばれていたモリー・リングウォルドという女優が主演の青春映画。
バック・トゥ・ザ・フューチャーがヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズを世界的なバンドにした映画だとしたら、プリティ・イン・ピンクは既に有名なバンドの曲をコレクションした映画と言えるのだろう。
タイトル曲のサイケデリック・ファーズ、スザンヌ・ヴェガ、ザ・スミス、ニューオーダー、ジェシー・ジョンソン、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、インエクセス・・・
「蓮見って昔の音楽詳しいんだね」
「知ってるバンドしか知らないけどね」
「どうして名前で呼んでくれないの」
「えっ・・・」
「わたしは頑張って『蓮見』って呼んでるのに。さっきから、『ねえ』とか『あのさ』とか。夫婦なら『おい』でもいいのかもしれないけど」
「え・・・」
「うん」
「え・・・と」
「うんうん」
「え、縁美 」
「うん!」
今でもその時のときめきを覚えてるよ。
とっても美しい名前だと今でも思うよ。
映画館を出た僕らは美容学校と調理学校の入っている雑居ビルの一階にあるダイナーみたいなカフェに入った。
「蓮見はどのシーンが気に入った?」
「うーん。ニューオーダーのシェル・ショックが流れるシーン」
「あ。登場人物たちの葛藤を表現したシーンね。緊迫感あったよねー」
「縁美は?」
「やっぱりプリティ・イン・ピンクの流れるシーン。あ。ここだとこれから映画を観る人もいるだろうからネタバレ禁止だね」
こんなに笑うなんて知らなかったな。
三年間中学校で同じクラスで、卒業間際になってこうして話す機会ができたけど、背が高くて怖そうでとっつきにくい女子、ついでに素行が悪いっていう陰口を女子から言われることが絶えない女子。
でも、僕とこうしてテーブルの空間の上で、コーヒーの湯気と香とに頬と鼻孔を撫でられて向き合うふたりは。
まるで、さっき観た映画の青春を送るキャラたちみたいな。
「縁美はピンクが似合うかもね」
「わ」
「なに?」
「蓮見がそんなこと言うなんて・・・」
「だめかな」
「ううん」
真っ直ぐ伸ばした姿勢で僕の顔の少し上から、息が香るぐらいに顔を近づけて、彼女は言った。
「嬉しい」
「うん」
これが中三の終わり、僕と
地元の名画座で「プリティ・イン・ピンク」という映画を観た。
ちょうど1980年代の映画特集を日替わりでやってて「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の翌日がこの映画だった。
公開当時アメリカでティーンの女王と呼ばれていたモリー・リングウォルドという女優が主演の青春映画。
バック・トゥ・ザ・フューチャーがヒューイ・ルイス・アンド・ザ・ニューズを世界的なバンドにした映画だとしたら、プリティ・イン・ピンクは既に有名なバンドの曲をコレクションした映画と言えるのだろう。
タイトル曲のサイケデリック・ファーズ、スザンヌ・ヴェガ、ザ・スミス、ニューオーダー、ジェシー・ジョンソン、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダーク、インエクセス・・・
「蓮見って昔の音楽詳しいんだね」
「知ってるバンドしか知らないけどね」
「どうして名前で呼んでくれないの」
「えっ・・・」
「わたしは頑張って『蓮見』って呼んでるのに。さっきから、『ねえ』とか『あのさ』とか。夫婦なら『おい』でもいいのかもしれないけど」
「え・・・」
「うん」
「え・・・と」
「うんうん」
「え、
「うん!」
今でもその時のときめきを覚えてるよ。
とっても美しい名前だと今でも思うよ。
映画館を出た僕らは美容学校と調理学校の入っている雑居ビルの一階にあるダイナーみたいなカフェに入った。
「蓮見はどのシーンが気に入った?」
「うーん。ニューオーダーのシェル・ショックが流れるシーン」
「あ。登場人物たちの葛藤を表現したシーンね。緊迫感あったよねー」
「縁美は?」
「やっぱりプリティ・イン・ピンクの流れるシーン。あ。ここだとこれから映画を観る人もいるだろうからネタバレ禁止だね」
こんなに笑うなんて知らなかったな。
三年間中学校で同じクラスで、卒業間際になってこうして話す機会ができたけど、背が高くて怖そうでとっつきにくい女子、ついでに素行が悪いっていう陰口を女子から言われることが絶えない女子。
でも、僕とこうしてテーブルの空間の上で、コーヒーの湯気と香とに頬と鼻孔を撫でられて向き合うふたりは。
まるで、さっき観た映画の青春を送るキャラたちみたいな。
「縁美はピンクが似合うかもね」
「わ」
「なに?」
「蓮見がそんなこと言うなんて・・・」
「だめかな」
「ううん」
真っ直ぐ伸ばした姿勢で僕の顔の少し上から、息が香るぐらいに顔を近づけて、彼女は言った。
「嬉しい」