131 美しい花と醜い花、咲くのはどっち?

文字数 993文字

 意外なことだけど。
 縁美(えんみ)は醜い花も存在すると言う。

「いやだな」
「どうしたの?縁美」
蓮見(はすみ)くん。肌がどんどん古びていくよ」
「古びる?・・・じゃあ、アンチエイジングしないと」
「ううん。違うよ。若いか老いてるかっていうことじゃなくて。わたしの頬の皮膚のきめ細かさだとか手の甲の生きている細胞の数だとか・・・そういうものが全部衰えて行ってる。毎日どころか一分一秒毎に」
「悲しいこと言わないでよ」
「花はいきなり枯れるんじゃないよ。しおれていって、それで次は水分が完全になくなって・・・」
「ドライフラワーだってあるよ」
「それはまた別の美。殺して保存するわけだから」

 花を殺すなんて、なんだか罪な言い回しだ。
 だから僕は金曜の夜に彼女をレストランに連れて行った。

「ほら。どう?イタリアンだけど食材がコラーゲン豊富なものばっかり。タラやオクラや若鳥の皮の部分も臭みを取ってしっとり料理されてるよ」
「ありがとう」

 笑って・・・・くれない。
 口角は上がってるけど、寂しい笑いだ。

「どうしたの、縁美」
「蓮見くん。わたしたち20歳だよ」
「うん・・・・・」
「もう20歳だよ。ねえ、いつ結婚する?いつ養子に来てくれる子を探す?」
「大事なことだから時間をかけて納得しながらじゃないと」
「大事なことだからすぐに判断できるはずだし問題は判断した後にそれを実行していくことだよ。今もどこかで親に突き放されて泣いてる子がいるよ」
「わかってるよ」
「今の言い方、蓮見くんぽくない」

 ほんとだ。
 僕以上に僕を観てる。
 観てくれてる。

「正直に言うよ。判断する自信がないんだ。まだ先延ばしにできるんじゃないか、って思いがあるんだ」
「蓮見くん・・・・」
「こんな僕って、嫌いかい?」

 彼女が右目の目尻からひとしずくだけ涙をすべらせた。
 丸い、花の葉の繊毛の上で転がるような、可憐な涙。

「ごめんね、蓮見くん。わたしもほんとは自信がない。それで本当にいいのか、って。でもやっぱり耐え切れないの。このまましおれていくことが」

 花に美醜があるならば蕾や満開の状態か、枯れて朽ちた状態かというイメージしかなかったけど。

 しおれる。

 僕もいやだ。

 このまま皮膚が水気を無くして、もしかしたら髪も抜けて、歯並びも徐々に不揃いになって、毛穴が快活さを損ねて行って。

 しおれてしまう。

 僕をも泣かせる縁美のひとことがあった。

「蓮見くん。嫌いにならないで」
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