FIFTY-FIVE ツンとデレ、あなたの嗜好は?

文字数 1,018文字

 ツンデレって言葉はまだ死語ではないらしい。

蓮見(はすみ)くん。わたしってツン?デレ?」
「・・・なにそれ」

 日曜夜のくつろぎのひと時。

 僕も縁美(えんみ)も銭湯から帰ってパジャマに着替えてアイスも食べ終えて・・・布団の上で正座して野球観戦してる時に彼女が突然訊いてきた。

「ツンの時もあるし・・・デレの時はちょっと少ないかもね」
「やっぱりそう思う?」

 自覚はあるんだ。

 そもそも中学時代の縁美はツンしかないキャラだったと思う。
 付き合い始めて笑うことも分かったし、一緒に暮らし始めた初日に、

「わたし蓮見のこと『蓮見くん』って呼ぶことにする!」

 って宣言したのは究極のデレ・シチュエーションだったし。

 絶対理由は人に言うなって縁美に口止めされてるけど。

「蓮見くんはツンとデレの割合がどのくらいが好み?」
「え・・・・・・・・・・・分かんない」
「そうだよねえ・・・・・・」

 縁美は、ぼふっ、と枕に頭からダイブした。
 なびいた髪からシャンプーの匂いがする。

「・・・そういうところ、デレだよね」
「え?今の?良かった?」
「うん」
「じゃあ、も一度しよっかな。えい!」

 やっぱりかわいい。

 背が高いのに子猫みたいだ。

「蓮見くんはツンっていうより冷めた感じがするよねえ」
「それはお互い様じゃないかなあ」
「でも、余り怒ったりもしないし。デレデレしてるのも見たことないし」
「・・・縁美が猫の真似したらデレデレするかも」
「えっ・・・」

 期待してなかったのに。

「にゃ、にゃあ・・・」
「えっ・・・・・」
「にゃあ!」

 そのまま僕に覆いかぶさってきた。

「く、苦しい苦しい!」
「にゃにおう!デレを隠そうとする蓮見くんの性根を叩き直す化け猫縁美にゃのだ!にゃおう!」

 たまらず僕は腹這いになってずりずりと逃げる。

「にゃにゃ!」

 とうとう僕は仰向けにひっくり返されて縁美がマウントの状態になった。

 ぴったりとふたりの恥骨あたりが重なってしまってる。
 そこでようやく縁美の顔が急速に赤くなっていった。

「し、失礼しました」

 降りて向こうを向いて正座する縁美。

 僕は後ろから抱きしめようとそっと近づいた。

「10年」

 突然ぼそっとつぶやく縁美に、びくっ、として僕は手を引っ込める。

「ううん、20年分のデレを使い果たしてしまいました。次は40歳までお待ちください」
「ええ〜」

 ブーイングする僕に、くるん、と振り向く縁美。

「じゃあ、猫は使い果たしたので、次は子犬ね!ワウワウ!」

 なんなんだこのかわいさは。
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