147 不機嫌と上機嫌、彼女はどっち?

文字数 1,255文字

「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

 縁美(えんみ)が昨夜から無言だ。

「・・・・・・・・い、行ってきます」
「・・・・・・・・・・・・」
「さ、先行くね」
「・・・・・・・・・・・・・どうぞ」

 はあ・・・・・・・

「どうしたの蓮見(はすみ)っち!?」
「・・・・はい」
「生ける屍みたいになってるよ」
「・・・・・・縁美がしゃべってくれないんです」
「ほう!」

 喜んでる。

「サラトちゃんサラトちゃん!」
「なんですか?美咲(みさき)さん」
「とうとう蓮見っちが縁美ちゃんに振られたって!」
「・・・・・・・そんな訳ないですよ」

 あれ?

 てっきりサラトちゃんも喜ぶかと思ったのに。

「仕事しましょう」
「ちょいちょい、サラトちゃん。いいの?二度とないチャンスなのに」
「縁美さんが蓮見せんぱいを振る訳がないですよ」
「なんで?」

 僕も訊きたい。

「前おっしゃってたじゃないですか。縁美さんは中学の成績がすごく良かったって」
「う、うん。確かに縁美は学年で常に10番内だったけど・・・」
「その縁美さんが高校進学をやめて蓮見せんぱいと一緒に暮らし始めたんですよ?つまり蓮見せんぱいに人生を賭けたんです」

 人生を賭けた。
 確かに・・・・

「今更蓮見せんぱいを振ったら縁美さんの人生そのものが全否定です。わたしなら悔しくてそんなことできません」
「でもサラトちゃん。もし蓮見っちがとんでもなく優柔不断で甲斐性なしだったら見限るんじゃないかな?」
「み、美咲さん?」
「たとえだよ、蓮見っち」
「それでも振りません。叩き直すんです!」
「えっ!?」

 僕と美咲さんが声を揃えた。
 サラトちゃんは続けた。

「縁美さんがどうしようもない蓮見せんぱいの性根を叩き直すんです!」

 なんか凄い言われようだ・・・

「じゃ、じゃあ、どうして縁美は口をきいてくれないんだろ」
「それは縁美さんに直接訊いてください」

 はっ!

「訊きましたか?」
「訊いてない・・・・・」

 僕は会社帰り、駅前の洋菓子店でケーキを5個、店長さんお任せでラッピングしてもらった。

 5個すべて縁美に献上する覚悟で。

 そして意を決してアパートのドアを開ける。

「ただいま」
「・・・・・・・・・・・・」
「あのさ・・・・・なんでしゃべってくれないの?」
「・・・・・・・消したでしょ」
「?・・・・・何を?」
「ブルーレイに撮ってあった火曜ドラマの最終話、消したでしょ!」

 はっ!

「消した・・・・・かもしれない」
「消したよね?」
「・・・・・はい・・・・消しました」

 会社勤めの男子女子が主人公で僕らに似てるって欠かさず観てたんだけど・・・操作を誤って僕が消してしまったんだった・・・・・・

「この間夜勤で蓮見くんがリアルタイムで観れなかったからわたしもわざと観ないでおいたのに・・・」
「ごめん」
「なので、ジャン!」

 ん?

「配信版ダウンロードしちゃった!それ、ケーキ?」
「うん」
「じゃ、罰として晩ご飯はケーキね。で、今から一緒に観よ?」

 ケーキは甘いけど、ドラマは切なくて・・・・縁美はずっと泣き通しだった。

 恥ずかしながら、僕も・・・・・・
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