ONE HUNDRED FIVE 野苺とヘビ苺ならどっち?
文字数 1,231文字
「蓮見 くん。おばあちゃんが畑で苺 を作ってたんだ。スイカの畝がある隣のとっても小さなスペースでね」
「ふうん」
「特別に棚があるわけでもなくほんとに無造作に地面にそのまま成ってる、って感じで」
「苺って自前で作るってイメージが全然無かったよ」
金曜の夜というか土曜の明け方。熱帯夜で眠りの浅い僕にまるで夜伽話でもするみたいに縁美 が語ってくれた。
「でね。おばあちゃんは野苺 も食べさせてくれたの」
「野苺?」
歌詞になりそうな、いや、事実色んな歌でかわいらしさだけでなくって剥き出しの、原生のイメージで捉えて表現されていたように思う。
縁美はまるで幻想小説のように物語ってくれた。
祖母とふたりして崖のふちの小さな道を登ったの。
そこは毎年侵食されて幅がどんどん狭くなってる道でいつしか車も通れなくなってね。
でも祖母は一輪車、あ、小学生の女の子が曲乗りするあの一輪車じゃないよ、農作業や街なかの人だったら工事現場なんかで見かける手押しの一輪の荷台車のこと。それは通れるスペースがあったから押してね。わたしはその後ろから坂道を登ったの。
目的地はね、秘密の家。
ううん、家っていうか、里山のやっぱり山肌がむき出しになった崖の壁面に横穴とまでは言えないくぼんだスペースがあってね。それを祖母とわたしで秘密の家、って呼んでたの。
一輪車に一升瓶の空き瓶に入れた水を積んで、それからキャップ付きで開封できるお酒の小瓶の空き瓶に水を入れたのも。
坂道は途中で獣道みたいになってね、草がふたりの腰ぐらいまで埋まるほど。
あ、ほら。
わたしは子供だったし、祖母は歳を取ってどんどん背が縮んでたからそういう状態になるの。
「野苺さね」
そう言って祖母はね、草の中から摘んで、一個、指で赤い野生のイチゴを渡してくれたの。
祖母も自分で摘んだのを食べててね。
わたしは口に入れてみた。
つぷつぷした。
ごめんね。子供だったから描写の語彙があんまりなくって、口腔の皮膚が感じたままに喋ってるのよ、蓮見くん。
あ、甘くはなかった。
でも、癖になる酸っぱさ、そしてとってもはっきりと記憶に残る味覚。
脳が醒めるって感じかな?
でね。
そのまま歩いて、秘密の家に着くとね、とっても涼しいの。
日差しを遮るくぼみがね、もう、真っ黒、っていうぐらいにはっきりした影なんだ。
どれぐらい涼しいかっていうとね、座ったその足元にアリジゴクの巣がいくつもあるぐらいに涼しいの。
この感覚、わかるかな、蓮見くん。
「わかるよ」
わ、嬉し。
蓮見くんとわたしはやっぱり似たもの同士。あ、ほんとは似たもの夫婦、って言いたいけど少し遠慮してみました。
でね、おばあちゃんが一升瓶の水を湯呑みに入れて飲むと、シワシワの喉が動くのがテレビで観たイグアナみたいでね。
「ふ」
わたしはお酒の小瓶の水をラッパのみ。
でも運良く酒呑みには育ってない。
「僕も食べてみたい」
「わたしが摘んであげる。あ、でもヘビイチゴと間違えないようにするね」
「ふうん」
「特別に棚があるわけでもなくほんとに無造作に地面にそのまま成ってる、って感じで」
「苺って自前で作るってイメージが全然無かったよ」
金曜の夜というか土曜の明け方。熱帯夜で眠りの浅い僕にまるで夜伽話でもするみたいに
「でね。おばあちゃんは
「野苺?」
歌詞になりそうな、いや、事実色んな歌でかわいらしさだけでなくって剥き出しの、原生のイメージで捉えて表現されていたように思う。
縁美はまるで幻想小説のように物語ってくれた。
祖母とふたりして崖のふちの小さな道を登ったの。
そこは毎年侵食されて幅がどんどん狭くなってる道でいつしか車も通れなくなってね。
でも祖母は一輪車、あ、小学生の女の子が曲乗りするあの一輪車じゃないよ、農作業や街なかの人だったら工事現場なんかで見かける手押しの一輪の荷台車のこと。それは通れるスペースがあったから押してね。わたしはその後ろから坂道を登ったの。
目的地はね、秘密の家。
ううん、家っていうか、里山のやっぱり山肌がむき出しになった崖の壁面に横穴とまでは言えないくぼんだスペースがあってね。それを祖母とわたしで秘密の家、って呼んでたの。
一輪車に一升瓶の空き瓶に入れた水を積んで、それからキャップ付きで開封できるお酒の小瓶の空き瓶に水を入れたのも。
坂道は途中で獣道みたいになってね、草がふたりの腰ぐらいまで埋まるほど。
あ、ほら。
わたしは子供だったし、祖母は歳を取ってどんどん背が縮んでたからそういう状態になるの。
「野苺さね」
そう言って祖母はね、草の中から摘んで、一個、指で赤い野生のイチゴを渡してくれたの。
祖母も自分で摘んだのを食べててね。
わたしは口に入れてみた。
つぷつぷした。
ごめんね。子供だったから描写の語彙があんまりなくって、口腔の皮膚が感じたままに喋ってるのよ、蓮見くん。
あ、甘くはなかった。
でも、癖になる酸っぱさ、そしてとってもはっきりと記憶に残る味覚。
脳が醒めるって感じかな?
でね。
そのまま歩いて、秘密の家に着くとね、とっても涼しいの。
日差しを遮るくぼみがね、もう、真っ黒、っていうぐらいにはっきりした影なんだ。
どれぐらい涼しいかっていうとね、座ったその足元にアリジゴクの巣がいくつもあるぐらいに涼しいの。
この感覚、わかるかな、蓮見くん。
「わかるよ」
わ、嬉し。
蓮見くんとわたしはやっぱり似たもの同士。あ、ほんとは似たもの夫婦、って言いたいけど少し遠慮してみました。
でね、おばあちゃんが一升瓶の水を湯呑みに入れて飲むと、シワシワの喉が動くのがテレビで観たイグアナみたいでね。
「ふ」
わたしはお酒の小瓶の水をラッパのみ。
でも運良く酒呑みには育ってない。
「僕も食べてみたい」
「わたしが摘んであげる。あ、でもヘビイチゴと間違えないようにするね」