146 異世界と現実世界のどっちが好き?
文字数 1,245文字
土曜の夜、女子が僕の部屋にお泊まりに来た。
いやいや、これだと中学生男子の妄想ラブコメになってしまう。絵プロ鵜 がお泊まりに来た。
「某 は女子ではないのかね!」
「まあまあ絵プロ鵜ちゃん」
絵プロ鵜も縁美 も僕の思考を可視化したみたいに普通に会話してる。
まあいいけど。
お客様用の布団が無いので縁美の布団に女子ふたりが入り、僕の布団はその隣。縁美を真ん中に3人が川の字になって灯りを消した。
「蓮見 どの、縁美どの。某、異世界モノを描かぬかと編集さんから言われておるのだが・・・どう思うかね?」
「そっか。今、小説も漫画も異世界の作品が売れてるもんね」
「縁美どの。編集さんの立場も分かるのさね。ありがたいことに某の連載は読者アンケートでも好評を頂いてるのだが『爆発力』はないのさね」
「そもそも絵プロ鵜は異世界モノの創作とか読むの?」
「蓮見どの。資料としては読むさね。でもなんというか、異世界を癒しとは思わないさね」
あれ?
そうなのか?
「でも絵プロ鵜ちゃん。異世界って学校や仕事や・・・引きこもりの子が辛い現実を一瞬でも忘れるためにはとても必要なメディアじゃないの?」
「じゃあふたりに訊くさね。蓮見どのと縁美どのは異世界を読むかね?」
もう眠気が来てた僕は絵プロ鵜のひょっとしたら根源的かもしれない問いかけにもう一度起きないとという気分にさせられた。
そして答えたんだ。
「読まない」
「そう言えば・・・わたしも・・・」
「なぜさね」
一番世の中が納得する答えというか
『お前らリア充じゃねえか』
でも、そうじゃないんだ、っていう僕のもやもやした、ちょっと眠気も入って余計に言葉にし難いセンシティブな回答を縁美は見事にしてくれた。
「わたしたちの現実がまるで異世界みたいに過酷だから」
どんなチートや回復魔法があったって、たとえば魔王に手足をもがれたらその瞬間は痛みを感じるに決まってる。
いや、痛みどころか本当に手足をもがれたら、即座に死んでしまいたいほどの絶望に沈み込むだろう。
生き返りなどせず永遠に。
「わたしたち、15歳でふたりで暮らし始めて。その前後に色んな人たちから色んなことをコメントされて」
「某は全部見ておるし聴いておるし知っておるさね」
「絵プロ鵜。あの時絵プロ鵜だけが僕らのそばに居てくれたこと、絶対に忘れない。僕らの親たちすら・・・僕らを捨て去りたくて現にそうしたのに」
「某はだから躊躇するのさね。異世界を描くことに。リアル世界で暴言や暴力やネグレクトにぶつかってそれをもし『魔法』で回復できるんだとしたら・・・現実にはあり得ない『リア充』を某が漫画の中で描いたら、ふたりを傷つけるさね・・・」
思えば僕らの親友としての絵プロ鵜も、漫画家としての絵プロ鵜も、15歳の時に既にしてこうだった。
縁美は言った。
「絵プロ鵜ちゃんの作品が大勢の人に読まれて、一瞬でも誰かを『逃がして』あげることができるのなら、わたしたちは平気だよ。ね。蓮見くん」
いやいや、これだと中学生男子の妄想ラブコメになってしまう。
僕らの部屋
に「
「まあまあ絵プロ鵜ちゃん」
絵プロ鵜も
まあいいけど。
お客様用の布団が無いので縁美の布団に女子ふたりが入り、僕の布団はその隣。縁美を真ん中に3人が川の字になって灯りを消した。
「
「そっか。今、小説も漫画も異世界の作品が売れてるもんね」
「縁美どの。編集さんの立場も分かるのさね。ありがたいことに某の連載は読者アンケートでも好評を頂いてるのだが『爆発力』はないのさね」
「そもそも絵プロ鵜は異世界モノの創作とか読むの?」
「蓮見どの。資料としては読むさね。でもなんというか、異世界を癒しとは思わないさね」
あれ?
そうなのか?
「でも絵プロ鵜ちゃん。異世界って学校や仕事や・・・引きこもりの子が辛い現実を一瞬でも忘れるためにはとても必要なメディアじゃないの?」
「じゃあふたりに訊くさね。蓮見どのと縁美どのは異世界を読むかね?」
もう眠気が来てた僕は絵プロ鵜のひょっとしたら根源的かもしれない問いかけにもう一度起きないとという気分にさせられた。
そして答えたんだ。
「読まない」
「そう言えば・・・わたしも・・・」
「なぜさね」
一番世の中が納得する答えというか
決めつけ
だとしたら次のようなものだろう。『お前らリア充じゃねえか』
でも、そうじゃないんだ、っていう僕のもやもやした、ちょっと眠気も入って余計に言葉にし難いセンシティブな回答を縁美は見事にしてくれた。
「わたしたちの現実がまるで異世界みたいに過酷だから」
どんなチートや回復魔法があったって、たとえば魔王に手足をもがれたらその瞬間は痛みを感じるに決まってる。
いや、痛みどころか本当に手足をもがれたら、即座に死んでしまいたいほどの絶望に沈み込むだろう。
生き返りなどせず永遠に。
「わたしたち、15歳でふたりで暮らし始めて。その前後に色んな人たちから色んなことをコメントされて」
「某は全部見ておるし聴いておるし知っておるさね」
「絵プロ鵜。あの時絵プロ鵜だけが僕らのそばに居てくれたこと、絶対に忘れない。僕らの親たちすら・・・僕らを捨て去りたくて現にそうしたのに」
「某はだから躊躇するのさね。異世界を描くことに。リアル世界で暴言や暴力やネグレクトにぶつかってそれをもし『魔法』で回復できるんだとしたら・・・現実にはあり得ない『リア充』を某が漫画の中で描いたら、ふたりを傷つけるさね・・・」
思えば僕らの親友としての絵プロ鵜も、漫画家としての絵プロ鵜も、15歳の時に既にしてこうだった。
縁美は言った。
「絵プロ鵜ちゃんの作品が大勢の人に読まれて、一瞬でも誰かを『逃がして』あげることができるのなら、わたしたちは平気だよ。ね。蓮見くん」