214 ブルーマンデー、憂鬱とカクテルならどちら?
文字数 1,142文字
月曜日、僕は研修に出かけた。
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。私は県の産業センターで心理カウンセラーを勤めさせて頂いております、永瀬 と申します」
月曜の午後、県営の会議室に県内企業の代表者が集まっていた。
経営者向けのセミナーだ。
自殺防止の。
個人事業主もサクラで集められてて、迫田 さんから顔を出して来てくれ、って頼まれたんだ。
でも、僕自身は興味がある。
「急激な経済の停滞で主に小さな企業の業況が悪化。事業に行き詰まった経営者の方々の自殺が急増しています。わが県は昨年度の同時期と比較して2倍の件数です。危機的状況と言わざるを得ません」
永瀬さんは精神科の医師で、産業医としていくつかの企業のカウンセリンにも携わっているそうだ。
女性で、まだ若い。
けれどもその言葉は人生を生き尽くしたかのような重みがあった。
「皆さん、目をつぶってください」
柔らかな永瀬さんの声にはこちらのココロも柔軟にする効果があるようだ。突然言われて全員訳が分からなかったけど素直に目をつぶった。
「目をつぶったままで挙手してください。死にたいと思ったことのある方」
静寂の中。
衣ずれの音が、微かに感じられる。
「では・・・・実際に死のうと行動されたことのある方」
気配は感じる。
でもそれが何人の手なのかは分からない。
「・・・・・ありがとうございます。目を開けてください」
それから永瀬さんはパワポで統計資料を示しながら、淡々と話した。
「みなさん。経営に携わる方達の苦悩を分かります、とは軽々しく言えません。以前読んだ経営書には心労で血尿が出たということが書かれていたほどです。それほどの思いで経営なさっている皆さんにわたしから一点だけ、お伝えしたいことがあります」
不思議なことに、ここに集っている女性・男性・年齢問わず自分でなんらかの事業をやっているひとたち全員が、真剣な表情で聞き入っていた。
誰一人他人事だと思わずに永瀬さんを見つめ、言葉を待っている。
「ご心痛で頭の中が真っ白になってしまいそうな時は、すべての予定をキャンセルして精神科を直ぐに受診してください。躊躇せずに」
少し間を置いて、永瀬さんは言葉を繋いだ。
「あなたが、とても心配なんです」
涙ぐんでいる女性がいる。
うんうん、と頷いている男性がいる。
みんな、辛い。
「わたしたちは・・・わたしは、医師として・・・・人間として、必ずあなたを救います」
夜、アパートに帰って、縁美 と並んで布団に入ってから今日のことを話した。
「蓮見 くん」
「なに」
「蓮見くんは手を挙げたの?」
僕は答えない。
答えられない。
そしたら縁美が、僕の髪をそっと撫でてくれた。
「わたしは絶対蓮見くんを助けるよ」
何度も、撫でてくれた。
「かならず、救うよ」
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。私は県の産業センターで心理カウンセラーを勤めさせて頂いております、
月曜の午後、県営の会議室に県内企業の代表者が集まっていた。
経営者向けのセミナーだ。
自殺防止の。
個人事業主もサクラで集められてて、
でも、僕自身は興味がある。
「急激な経済の停滞で主に小さな企業の業況が悪化。事業に行き詰まった経営者の方々の自殺が急増しています。わが県は昨年度の同時期と比較して2倍の件数です。危機的状況と言わざるを得ません」
永瀬さんは精神科の医師で、産業医としていくつかの企業のカウンセリンにも携わっているそうだ。
女性で、まだ若い。
けれどもその言葉は人生を生き尽くしたかのような重みがあった。
「皆さん、目をつぶってください」
柔らかな永瀬さんの声にはこちらのココロも柔軟にする効果があるようだ。突然言われて全員訳が分からなかったけど素直に目をつぶった。
「目をつぶったままで挙手してください。死にたいと思ったことのある方」
静寂の中。
衣ずれの音が、微かに感じられる。
「では・・・・実際に死のうと行動されたことのある方」
気配は感じる。
でもそれが何人の手なのかは分からない。
「・・・・・ありがとうございます。目を開けてください」
それから永瀬さんはパワポで統計資料を示しながら、淡々と話した。
「みなさん。経営に携わる方達の苦悩を分かります、とは軽々しく言えません。以前読んだ経営書には心労で血尿が出たということが書かれていたほどです。それほどの思いで経営なさっている皆さんにわたしから一点だけ、お伝えしたいことがあります」
不思議なことに、ここに集っている女性・男性・年齢問わず自分でなんらかの事業をやっているひとたち全員が、真剣な表情で聞き入っていた。
誰一人他人事だと思わずに永瀬さんを見つめ、言葉を待っている。
「ご心痛で頭の中が真っ白になってしまいそうな時は、すべての予定をキャンセルして精神科を直ぐに受診してください。躊躇せずに」
少し間を置いて、永瀬さんは言葉を繋いだ。
「あなたが、とても心配なんです」
涙ぐんでいる女性がいる。
うんうん、と頷いている男性がいる。
みんな、辛い。
「わたしたちは・・・わたしは、医師として・・・・人間として、必ずあなたを救います」
夜、アパートに帰って、
「
「なに」
「蓮見くんは手を挙げたの?」
僕は答えない。
答えられない。
そしたら縁美が、僕の髪をそっと撫でてくれた。
「わたしは絶対蓮見くんを助けるよ」
何度も、撫でてくれた。
「かならず、救うよ」