１３２　やさしさと強さならどっち？

　やさしいかどうかって訊かれたら僕はなんて答えようかな。

　土曜の深夜というか日曜の明け方というか、夜眠れなくて、15歳の時からの親友である僕ら3人でLINEで少し話した。僕と縁美はアパートの布団の中で。絵プロ鵜は資料に囲まれた万年ゴタツに埋もれてスマホをタップしてる筈だ。

　絵プ：某(それがし)の漫画はやさしいでござろうか
　縁美(えんみ)：やさしいやさしい！
　蓮見(はすみ)：うーん。時折シュール過ぎてやさしくない

「ちょっと蓮見くん。絵プロ鵜ちゃんの漫画はやさしいよ」
「縁美、チャットチャット」

　縁美：蓮見くん。絵プロ鵜ちゃんの漫画はやさしいよ。わたしたちをモデルに描いてくれた回もすごくかわいくて温かいエピソードにしてくれたし
　蓮見：本当にやさしいならどうして僕の顔があんなに陰険な雰囲気なんだよ
　絵プ：蓮見どの、それを根に持っておったのかね。話の展開上ああせざるを得なかったのさね。すまぬさね
　蓮見：もういいよ
　縁美：わ。今の言い回し漫画の中のキャラにそっくり！

「僕はあんな陰険じゃないよ」
「蓮見くん、チャットチャット」

　3人の楽しい（？）おしゃべりは軽口とは裏腹に少しずつ深まって。

　絵プ：ならば某の漫画は強いかね？
　蓮見：強い？
　縁美：絵プロ鵜ちゃん、どういう意味？
　絵プ：SNSで時々こう書かれるさね。『永遠のモラトリアムで都合のいい現実逃避でしかない。弱タマだ』
　縁美：ひどいね
　蓮見：弱タマなんて独特の言い回しだね。もしかして特定の人が攻撃を？
　絵プ：その人がつぶやくと呼応する人が結構いるさね

　なんだろうな。
　どういう感情なんだろうな。
　絵プロ鵜の漫画が弱い？
　じゃあ強いってなんだよ。

　蓮見：僕と縁美は15歳の時に周り全員から傷を舐め合ってるだけの関係だって言われ続けた。でも絵プロ鵜は中学最後のその短い時間の一番僕らが側に居て欲しかった時に2人の繋がりを3人の小さな輪にしてくれた。どうしてだい？
　絵プ：絵になったのさね。ふたりは

　これが絵プロ鵜だ。
　彼女の漫画もそうだ。
　だから僕は絵プロ鵜につぶやいた

　蓮見：強弱なんかどうでもいい

　3人でのやっぱり楽しい（？）おしゃべりが終わった夜明け直前、今度はリアルの縁美が僕にチャットみたいに囁きかけた。

「蓮見くんて、やさしい」
「やさしくないよ。あのキャラみたいに陰険かも」
「ううん。やっぱりやさしい」

　そう言って彼女の方から唇で唇に触れてくれた。
　やさしく抱いて、互いの背中をパジャマの上から手のひらでさすり合って、そのまま眠った。