263 ウチの子とヨソの子ならどっち?
文字数 1,360文字
本当に寂しいことだし誠に申し訳ないことなんだけれども、迫田 さんのお通夜も葬儀も家族葬としてセレモニーホールでプランを組んで貰い、檀家のお寺さんに来て頂いて、お通夜の晩の夜伽も翌日の葬儀も参列者は真直 ちゃん・僕・縁美 、そして・・・・・
「この度は本当に言葉もないさね・・・」
どうしても、というたっての希望で絵プロ鵜 も参列してくれた。
真直ちゃんのことが本当に心配なんだろう。
「絵プちゃん泣いてる。ひゃひゃひゃ」
そう言う真直ちゃんも泣いていた。
火葬はコンピュータ制御されててセルのような個室になっている高熱焼却炉を完備した火葬場で行われ、スタッフの案内に従って僕らが箸でお骨を壺に納めた。ずっと昔、子供の頃に聴いた詩のような歌のような文章を思い出した。
あらものすごき一人旅
埋めば野辺の土となる
むくろはついに苔の下
焼けば墓場の灰となる
三途の川や死出の山
たましいは一人旅の空
「蓮見 さん」
「なに?・・・真直ちゃん」
「おじいちゃん、極楽に行けたかな」
分からない、とは答えられなかった。
「迫田さんは本当に立派な人だった。ご住職さまのお経で、きっと行けたさ」
迫田家の本家としては迫田さんと真直ちゃんしか県内に居ないことだけじゃなく、ここまで葬儀を簡素に済ますのは切実な理由があった。
仕事をしなくちゃいけないんだ。
「真直 ちゃん、頼みがあるんだ」
「はい」
「期日を切った受注が三件残ってる。『エクステリアの迫田』の受け持ち部分が完成しないとその後の工事が進まないんだ」
「三件とも一戸建ての新築だよね」
「急に春みたいな陽気になったから施主さんみんな前倒しでやってくれって言って来てる。真直ちゃん、しばらく学校休んでくれないか?」
「・・・・・はい」
抱えている受注の段取りをつけて、それから材料を仕入れている取引先や馴染みの大工仲間にも挨拶して回った。ただ、大工さんたちはご高齢で引退していて仕事を振ることはできない。みんなお年寄りらしく迫田さんの死にただただ寂しそうな顔をするだけだった。
さて、個人事業主が仕事をするに当たってはどうしてもお金が必要だ。
建材なんかの材料を仕入れることはもちろん、作業用のバンのガソリン代も自分で出さなくてはいけない。
縁美がスーパーの顧問司法書士を紹介してくれて、僕は迫田さんの帳簿をエコバッグに詰めて、夕方、司法書士事務所を訪れた。
「故人が借金せずに事業しておられたのはすごいですね。事業をスリム化してエクステリアに特化してたからでしょうね」
「先生。困っているのは預金に手をつけられるかどうかです」
「手元の現金は」
「差し当たりの受注に必要な分くらいはありました」
「預金については銀行さんとも相談しながら相続の手続きをしないといけませんね」
漠然とした知識はあるけれども、本当に実務上どうしなければいけないのかということになると、専門家に任さざるを得ない。
「ところであなたは事業承継者ではないのですか?」
「・・・・僕はいち従業員です。県内に居る故人の身内というと孫娘の子、っていうことになります」
「その子は何歳?」
「15歳です」
「あなたは?」
「20歳です」
司法書士の先生は口元に手を当ててしばらく考えて言った。
「その子を養子にするというのはどうでしょうね」
・・・・・・・・・えっ?
「この度は本当に言葉もないさね・・・」
どうしても、というたっての希望で
真直ちゃんのことが本当に心配なんだろう。
「絵プちゃん泣いてる。ひゃひゃひゃ」
そう言う真直ちゃんも泣いていた。
火葬はコンピュータ制御されててセルのような個室になっている高熱焼却炉を完備した火葬場で行われ、スタッフの案内に従って僕らが箸でお骨を壺に納めた。ずっと昔、子供の頃に聴いた詩のような歌のような文章を思い出した。
あらものすごき一人旅
埋めば野辺の土となる
むくろはついに苔の下
焼けば墓場の灰となる
三途の川や死出の山
たましいは一人旅の空
「
「なに?・・・真直ちゃん」
「おじいちゃん、極楽に行けたかな」
分からない、とは答えられなかった。
「迫田さんは本当に立派な人だった。ご住職さまのお経で、きっと行けたさ」
迫田家の本家としては迫田さんと真直ちゃんしか県内に居ないことだけじゃなく、ここまで葬儀を簡素に済ますのは切実な理由があった。
仕事をしなくちゃいけないんだ。
「
「はい」
「期日を切った受注が三件残ってる。『エクステリアの迫田』の受け持ち部分が完成しないとその後の工事が進まないんだ」
「三件とも一戸建ての新築だよね」
「急に春みたいな陽気になったから施主さんみんな前倒しでやってくれって言って来てる。真直ちゃん、しばらく学校休んでくれないか?」
「・・・・・はい」
抱えている受注の段取りをつけて、それから材料を仕入れている取引先や馴染みの大工仲間にも挨拶して回った。ただ、大工さんたちはご高齢で引退していて仕事を振ることはできない。みんなお年寄りらしく迫田さんの死にただただ寂しそうな顔をするだけだった。
さて、個人事業主が仕事をするに当たってはどうしてもお金が必要だ。
建材なんかの材料を仕入れることはもちろん、作業用のバンのガソリン代も自分で出さなくてはいけない。
縁美がスーパーの顧問司法書士を紹介してくれて、僕は迫田さんの帳簿をエコバッグに詰めて、夕方、司法書士事務所を訪れた。
「故人が借金せずに事業しておられたのはすごいですね。事業をスリム化してエクステリアに特化してたからでしょうね」
「先生。困っているのは預金に手をつけられるかどうかです」
「手元の現金は」
「差し当たりの受注に必要な分くらいはありました」
「預金については銀行さんとも相談しながら相続の手続きをしないといけませんね」
漠然とした知識はあるけれども、本当に実務上どうしなければいけないのかということになると、専門家に任さざるを得ない。
「ところであなたは事業承継者ではないのですか?」
「・・・・僕はいち従業員です。県内に居る故人の身内というと孫娘の子、っていうことになります」
「その子は何歳?」
「15歳です」
「あなたは?」
「20歳です」
司法書士の先生は口元に手を当ててしばらく考えて言った。
「その子を養子にするというのはどうでしょうね」
・・・・・・・・・えっ?