133 写真とホンモノならどっち?
文字数 1,094文字
写真はスマホで撮るものっていうのがほとんど当たり前になってるけど、僕は実はそれは苦手で。
今でも単体のデジカメで撮ってる。
「蓮見 くん。こんな感じ?」
「うん。そのまま顔を上げてみて」
「はい」
時折来る丘の上にある灯台のその麓 の海岸から東へ15分ほど歩くと、風景が一変する。
コンテナヤード。
そこにあるクレーン。
マリーナがあってその向こう側に、巨大、っていう僕が余り使わない大きさの表現を敢えてしなくちゃ説明のつかない大きなクレーンが何基か並んでいる。
遠近法を使って、縁美が見上げるクレーンが、縁美を摑みに来るような写真を今撮ってる。
「ねえ蓮見くん」
「うん」
「この服、蓮見くんの趣味なの?」
「うん・・・・・」
縁美に今日着てもらったのは彼女が何年も前に着たっきりになっていた白のワンピース。
秋深まる今の季節だと少し涼しすぎるだろうけど、卵色のカーディガンを手に持って冷えたら羽織っている。
「風が強いね」
「髪がなびいてる」
実際僕らは塩の成分が混じった港湾の波の上を流れてくる風に顔の前っ側を吹かれて、いい表現をすればしっとりと、悪い言い方だと少しべとっとした髪になってしまうような風を撮影の味方にした。
「じゃあ次は大橋に登るよ」
「え。あの橋って登れるんだ」
僕と縁美はクレーンを背景にしてやっぱり同じように巨大にそびえる、岸壁と岸壁の間をつなぐ大きな橋の歩道を歩いた。アーチを描くその橋の弧の一番高い所でふたりして止まって、港湾の向こうに続いている外洋も見下ろしてみた。
「今度はどんな風に撮るの?」
「僕が向こう側から撮るよ」
二車線対面通行のこの橋を僕は横切るための準備を始める。
切れ間のない車の流れ。なぜかっていうとみんなこの橋の上からの景色を、脇見をする訳にはいかないけれど、視線を真っ直ぐにしたままでナチュラルに入って来る景色を見るためにみんな若干スピードを落とすからだ。
「蓮見くん、危ないよ!」
「あっ」
一台だけ、他の車の流れを無視して、多分法定速度も無視して駆け上がって来た車があった。車の走りの予測でタイミングを計って走りだそうとしていた僕は、縁美に後ろから抱きかかえられた。
「危なかった・・・・・・」
「蓮見くん。怖いことしないで?」
「うん・・・ごめん・・・・・」
そのまま縁美はソックスを着けずに素足で履いた白のデッキ・シューズをコンパスの軸みたいにして僕を一緒にくるくるとまわし始めて。
180°反転して外洋の方へふたりの顔を向けた。
そのまま僕を背中から抱いたままで、多分さっきのコンテナヤードで積み荷をした貨物船のスクリューの軌跡を観た。
「蓮見くん、お船だよ」
今でも単体のデジカメで撮ってる。
「
「うん。そのまま顔を上げてみて」
「はい」
時折来る丘の上にある灯台のその
コンテナヤード。
そこにあるクレーン。
マリーナがあってその向こう側に、巨大、っていう僕が余り使わない大きさの表現を敢えてしなくちゃ説明のつかない大きなクレーンが何基か並んでいる。
遠近法を使って、縁美が見上げるクレーンが、縁美を摑みに来るような写真を今撮ってる。
「ねえ蓮見くん」
「うん」
「この服、蓮見くんの趣味なの?」
「うん・・・・・」
縁美に今日着てもらったのは彼女が何年も前に着たっきりになっていた白のワンピース。
秋深まる今の季節だと少し涼しすぎるだろうけど、卵色のカーディガンを手に持って冷えたら羽織っている。
「風が強いね」
「髪がなびいてる」
実際僕らは塩の成分が混じった港湾の波の上を流れてくる風に顔の前っ側を吹かれて、いい表現をすればしっとりと、悪い言い方だと少しべとっとした髪になってしまうような風を撮影の味方にした。
「じゃあ次は大橋に登るよ」
「え。あの橋って登れるんだ」
僕と縁美はクレーンを背景にしてやっぱり同じように巨大にそびえる、岸壁と岸壁の間をつなぐ大きな橋の歩道を歩いた。アーチを描くその橋の弧の一番高い所でふたりして止まって、港湾の向こうに続いている外洋も見下ろしてみた。
「今度はどんな風に撮るの?」
「僕が向こう側から撮るよ」
二車線対面通行のこの橋を僕は横切るための準備を始める。
切れ間のない車の流れ。なぜかっていうとみんなこの橋の上からの景色を、脇見をする訳にはいかないけれど、視線を真っ直ぐにしたままでナチュラルに入って来る景色を見るためにみんな若干スピードを落とすからだ。
「蓮見くん、危ないよ!」
「あっ」
一台だけ、他の車の流れを無視して、多分法定速度も無視して駆け上がって来た車があった。車の走りの予測でタイミングを計って走りだそうとしていた僕は、縁美に後ろから抱きかかえられた。
「危なかった・・・・・・」
「蓮見くん。怖いことしないで?」
「うん・・・ごめん・・・・・」
そのまま縁美はソックスを着けずに素足で履いた白のデッキ・シューズをコンパスの軸みたいにして僕を一緒にくるくるとまわし始めて。
180°反転して外洋の方へふたりの顔を向けた。
そのまま僕を背中から抱いたままで、多分さっきのコンテナヤードで積み荷をした貨物船のスクリューの軌跡を観た。
「蓮見くん、お船だよ」