177 BigとSmallならどっち?

文字数 1,101文字

 John Mellencampの『Small Town』ていう曲が好きなんだけど。

 僕がようやく個別面接にこぎつけたのはSmallな職場だった。

「やあ、こんにちは」
「よろしくお願いします」
「で、蓮見(はすみ)さん。最近どう?」
「えっ・・・・・そうですね、なかなか就職が決まらずにちょっと滅入ってました」
「そうだろうそうだろう。無職っていうのは辛いもんだ。実は俺もね、プラプラしてた時はそりゃあ後ろめたかったもんさ」
「社長さんがですか?」
「あっはっは。『社長』じゃないよ。ウチは会社じゃないし・・・ただの大工のひとり親方さ」

 僕が履歴書を送ると「話でもしようよ」と電話をかけて来てくれたのがいわゆる個人事業主として大工をやってる迫田(さこた)さんだった。
 年齢は70を少し超えて後期高齢者の一歩手前。

 でも、僕がイメージする大工とは少し違った。

「今時、ドーン!、ってまるごと一棟家を建てるなんてのはなかなかウチみたいな所じゃ難しくてねえ・・・・特化してるのさ」
「特化ですか?」
「そうさ。エクステリア・・・・門扉とか塀とかのことだけど、俺はそういうパーツから作ってそれを取り付けるのさ」

 主に木製の扉や塀を林業をやっている知り合いから木材そのものを仕入れて自分で設計・制作・施工までやるのだという。

「国産のいい木材を切り出してもらうんだけど多少割高でもエクステリアなら金額は知れてる。でも家の『顔』とも言えるからな。俺の『木工作家』っぽい腕を買ってくれる人もいるのさ」

 タブレットで写真を見せてもらった。

「あ・・・・・・・・」
「どうだい蓮見さん?」
「すごいです!美しいし・・・・こういう扉なら帰って来たくなります・・・・」
「ははは!嬉しいなあ。それからこれも見てよ」
「あっ!?」

 ロッカーズ・ミッドナイト・ランナーズっていう知る人ぞ知るベテランバンドのヴォーカリストと迫田さんが一緒に映った写真だ。

「雑誌で対談したのさ。その雑誌ってのが『アーキテクト・スピリッツ』っていう建築専門誌さ。まあマイナーな業界誌だけどな」

 わあ・・・・・・・

 あれ?今僕ココロん中で『わあ』なんて言ってしまった。

「俺の今んところの宝物はこの写真さ。蓮見さんの宝物も見せてくれよ」

 僕はスマホの待ち受けをそのまま見せた。

「彼女です。一緒に暮らしてます」
「ほう。所帯持ちか」
「結婚はまだ」
「きれいなひとだな」

 それから迫田さんは僕のココロを締め付けるような一言を言ってくれた。

「三千大千世界イチの花嫁になる」

 迫田さんと軽く諸条件について確認した後、僕はその場で縁美(えんみ)にLINEした。

 蓮見:ここに決めようと思う

 すぐに返信があった。

 縁美:おめでとう
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