TWENTY-SEVEN New TypeとOld Typeのどちらでありたい?

文字数 1,052文字

 古風な男。
 なんて言われてみたい。

「なあ、蓮見(はすみ)はなんで高校行かねえの?」

縁美(えんみ)じゃねえの?』と笑ったくだらない男子どもの質問を僕は黙殺した。

 やらないことの、ではなく、やることの理由の方が大事だ。

「蓮見はなんで働くの?」

 だから縁美がそう訊いてきた時、胸がときめいた。

「蓮見くんって古風だよね」
「お互いさまだよ」

 5年経った今、僕はしみじみそう思う。
 中学を卒業してまるで僕に付き合うようにして就職した縁美。
 そして一緒に暮らし始める僕らのことを傍若無人呼ばわりする人間で溢れ返った。一番近い身内さえもそうだったし。
 それからこうも呼ばれた。

「考え無しが」

「よお!蓮見!」
「ああ・・・久しぶり」

 時折中学の時の同級生と出くわすことがある。
 成人式にも行ってないから顔も忘れかかってることがほとんどだけど。

「景気はどうだ」
「まあまあかな」
「中卒で就職するとどうなのさ。給料とか」
「ウチの会社は関係ない給与体系だよ」
「へえ・・・マジか。どうせちっこい会社なんだろうけどな」
「ああ。ちっこいよ」
「まあ大学出たって今どきどうなるか分かんねえけどな」
「そうかな」
「俺今〇〇大なんだ」
「へえ」
「研究者目指してる」
「そうなんだ」
「なんだ・・・素っ気ないな」
「そんなことないよ」
「なあ蓮見。縁美とはその後どうなんだ」
「仲良くしてるよ」
「あいつも変わってるよな。せっかく△△高校行けるくらいの成績だったのに・・・俺の行ってる大学の合格者もいっぱい出してるのにな」
「へえ」
「まあ頭が良くても素行が悪かったからな、あいつは」
「そうだったかな」
「あ。悪かったな。こんなこと言って」

 思うなら、言うなよ。

「ねえ、縁美。△△高校って丘の上に建ってるんだよね」
「え・・・・・・・・うん。そうだよ・・・・・」
「行ってみたいな」

 休みの日にあまり乗り気じゃなかった縁美を誘って出かけてみた。坂はそれほどきつくないけど自転車で最後まで登り通せるほどではなかった。

「風が気持ちいいね」
「うん。ほら縁美。タンカーが」
「あ、ほんとだ。絵みたい」

 縁美の表現はよく分かる。
 見下ろす海の遠くを走る船と残ったままのスクリューの波しぶきの軌跡は止まって見えてしまう。

 どうしてここへ?なんて縁美は訊かないのさ。

「いい学校だね」
「蓮見くんもそう思う?」
「うん」
「ふふ。よかった」

 縁美が両腕をまっすぐに腰の後ろに伸ばして手の平を組み合わせ、まっすぐな姿勢が更に反り返るぐらいに背筋を伸ばして笑って言った。

「温故知新」
「なに?」
「蓮見くんとわたしの関係」
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