ONE HUNDRED SIXTEEN 捨てる神と拾う神、僕らはどっち?

文字数 682文字

「犬や猫じゃないんだぞ」

 僕は父親に反論した。

「犬や猫すら子を(さと)す」
「ふふ。あの女は牝犬よね」

 母親に宣言した。

「僕らは20歳だ」

 後悔はしてない。
 僕は僕自身の意思で両親と会った。
 僕をどうにもならない役立たずの人間だと15歳の春に刷り込むようにして追放された僕は、今や自らで意思を貫くことのできる年齢となったんだ。

養子縁組(ようしえんぐみ)を検討します」

 両親と会ったのはこの地方で一番店舗数の多いチェーンのカフェ。

 一方的に話し終えた僕は2人を置いて店を出、そのまま彼女が待機する個店の喫茶店へと歩いた。

 奇しくも『縁組』と同じ一文字を名前にもつ彼女。

 縁美(えんみ)の待っている場所へ。

蓮見(はすみ)くん、お父さまとお母さま、どうだった?」
「『できるもんならやってみろ』だって」
「そう・・・・・・」

 僕の生まれついてのカラダの・・・

の問題で。

 僕らはたとえ結婚したとしても子供を作ることができない。

 互いの体を、交差させることが、できず、種子もないから。

 不妊治療をするひとたちを支援しようとする風潮がある。

 妊活、なんて言葉がある。

 体外受精という方法を選択するひとたちもいる。

 でも。

 子供は『授かりもの』というばあちゃんたちのとても古風な言葉を思い起こした時、そのひびきは僕と縁美にとってとても自然なものだった。

 養子。

 僕と縁美が、生き物として子供を作ることができないのだとしたら、人間として子を授かろう。

 僕らのもとに来てくれる子が居るのなら。

「縁美」
「はい」
「きっといい子を授かるさ」

 どうしてだか分からないけど、縁美は僕と初めてキスした時みたいな恥じらいの笑みをした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み