FORTY-TWO 本編と番外編ならどんなもん?
文字数 1,084文字
「蓮見 くーん。明日有給取って。もう決めたから」
「えっ」
「縁美 ちゃーん。明日有給ね。順繰りに強制だから」
「はい?」
という感じで法律に基づく有給休暇強制消化のために縁美と僕は同時に今日会社を休んで朝から出掛けている。
僕らが思いついた非日常の過ごし方。
「蓮見くんは終点まで行ったことあるの?」
「ないよ。そういう発想すらないもん」
「それはそうだよね」
僕らの地方を横断するいつもの通勤電車。実はふたりともその初っ端あたりの駅で毎朝下車し、自分たちの会社のある地点から戻ってくるだけ。
さあ、何があるのか。
「こんなに長かったんだ」
「あ。でもあと三駅で着くよ」
降り立ったのは『彼方西 』
なんか、すごい駅名だな。
「わあ。花壇がきれい」
駅員がいないいわゆる無人駅を出たロータリーに花壇があって、僕らが名を知らないかわいらしい花が押し合うようにして咲いていた。
「地図がある」
ふたりの眼に留まったのは『眼鏡や』という店の名前。
というか他に商業店舗らしきものが見当たらなかった。
地図によれば大通りとされている道端に野草が茂るずっとメンテナンスされていないだろうアスファルトを海の風の香りが向かいから吹いてくる中、縁美と僕は歩いた。
「こん・・・にち・・・は?」
縁美がそう声をかけて入った店内はにわかには何の店か分からなかった。
表紙の褪せたロック専門雑誌や山岳専門誌なんかが平台に置かれるようにして陳列されているテーブルが真ん中にあり、その周辺をふたり掛けのテーブルがいくつかある。
カウンターぽい作りの下から、にょき、と顔をだしたのは僕らとそう年齢か変わらないだろう女性だった。
「あらあら。いらっしゃいませ・・・半年ぶりのお客様だわ」
「あの・・・カフェ?ですか?」
「あらぁ、お嬢さん。古本屋よぉ。コーヒーはおまけ」
「どうして『眼鏡や』なんて店の名前を?」
「彼氏さん?ふふ。わたしのあだ名をそのままつけただけよ。ほら、おっきい眼鏡でしょ」
そう言って見せびらかすように位置を直す彼女の眼鏡はトンボの眼鏡みたいにくりくりと大きなまん丸で鮮やかな新緑のようなフレームの色だった。
「あたしが小学校に入学したその日に隣の席の男の子が言ったのよ。『眼鏡や!』って」
なるほど。
眼鏡屋じゃないんだ。
「さて。彼氏さん彼女さん。ご注文は?」
「えと。じゃあブレンドを」
「おっと、そうじゃないのよ彼女さん」
「え?」
「言ったでしょ。コーヒーはおまけだって。本を買ってくれたら淹れてあげるわ」
「じゃあ・・・・・・・これを」
縁美が手にとったのは、淡い色彩の水彩で描かれた女の子が表紙の、絵本だった。
「えっ」
「
「はい?」
という感じで法律に基づく有給休暇強制消化のために縁美と僕は同時に今日会社を休んで朝から出掛けている。
僕らが思いついた非日常の過ごし方。
「蓮見くんは終点まで行ったことあるの?」
「ないよ。そういう発想すらないもん」
「それはそうだよね」
僕らの地方を横断するいつもの通勤電車。実はふたりともその初っ端あたりの駅で毎朝下車し、自分たちの会社のある地点から戻ってくるだけ。
さあ、何があるのか。
「こんなに長かったんだ」
「あ。でもあと三駅で着くよ」
降り立ったのは『
なんか、すごい駅名だな。
「わあ。花壇がきれい」
駅員がいないいわゆる無人駅を出たロータリーに花壇があって、僕らが名を知らないかわいらしい花が押し合うようにして咲いていた。
「地図がある」
ふたりの眼に留まったのは『眼鏡や』という店の名前。
というか他に商業店舗らしきものが見当たらなかった。
地図によれば大通りとされている道端に野草が茂るずっとメンテナンスされていないだろうアスファルトを海の風の香りが向かいから吹いてくる中、縁美と僕は歩いた。
「こん・・・にち・・・は?」
縁美がそう声をかけて入った店内はにわかには何の店か分からなかった。
表紙の褪せたロック専門雑誌や山岳専門誌なんかが平台に置かれるようにして陳列されているテーブルが真ん中にあり、その周辺をふたり掛けのテーブルがいくつかある。
カウンターぽい作りの下から、にょき、と顔をだしたのは僕らとそう年齢か変わらないだろう女性だった。
「あらあら。いらっしゃいませ・・・半年ぶりのお客様だわ」
「あの・・・カフェ?ですか?」
「あらぁ、お嬢さん。古本屋よぉ。コーヒーはおまけ」
「どうして『眼鏡や』なんて店の名前を?」
「彼氏さん?ふふ。わたしのあだ名をそのままつけただけよ。ほら、おっきい眼鏡でしょ」
そう言って見せびらかすように位置を直す彼女の眼鏡はトンボの眼鏡みたいにくりくりと大きなまん丸で鮮やかな新緑のようなフレームの色だった。
「あたしが小学校に入学したその日に隣の席の男の子が言ったのよ。『眼鏡や!』って」
なるほど。
眼鏡屋じゃないんだ。
「さて。彼氏さん彼女さん。ご注文は?」
「えと。じゃあブレンドを」
「おっと、そうじゃないのよ彼女さん」
「え?」
「言ったでしょ。コーヒーはおまけだって。本を買ってくれたら淹れてあげるわ」
「じゃあ・・・・・・・これを」
縁美が手にとったのは、淡い色彩の水彩で描かれた女の子が表紙の、絵本だった。