FINAL EPISODE 冬と春なら・・・・・どちらも大切で愛おしい季節
文字数 2,393文字
卒業式当日。
保管スペースの関係と、それから卒業生たちへのサプライズのために、ボードのデリバリーは式の始まる直前にした。
「おー、蓮見 っち!元気してたー!?」
「美咲 さん!」
「蓮見せんぱぁい。お届け物ですぅ」
(有)零細清掃社にデリバリーを依頼したんだ。トラックにボードを積んで美咲さんと三春 ちゃんでグラウンドに乗り付けてくれた。
「蓮見っちもやるもんだね。みんなびっくりするよ」
「だといいんですけど」
体育館の中で行われている卒業式が終盤に近付いた頃、一年生たちが大百足 のスタンバイのためにグラウンドに出てきた。
「蓮見 さーん。縁美 さんはまだ?」
「敵を欺くにはまず味方から。真直 ちゃん、縁美なら絵プロ鵜 と一緒にもう横付けしてるよ」
僕は縁美にメールした。
『おいで』
グラウンド横の道路にハザードランプを点けて駐車していた縁美のスーパーの大型バンがグラウンドにゆっくりと入って来て停まった。
「皆さん、お待たせしました」
「残りのボードさね!」
生徒たちに挨拶しながら縁美と絵プロ鵜はバンの後部ハッチを開ける。
実は縁美のスーパーは毎年卒業式の謝恩会のオードブルの注文を受けていて、その配達と一緒にボードも積んで来てもらったんだ。
「え!え!これ全部!?」
「すっげえいっぱいある!」
一年生たちが驚きながら美咲さんたちのトラックと縁美たちのバンからボードを下ろしていく。
「みんな!グラウンドの横一列に2m間隔で並べて行って!」
この場を仕切るのは真直 ちゃんだ。ハンドマイクで各科の一年生全員に指示する。一年生たちは忠実に指示に従って、ボードを並べ終えた。
「おいおい。この数って・・・」
「ああ、そういうことだな」
一年生たちは僕の意図を察してくれた。
もちろんソロバン ちゃん、モンキー・レンチくん、コテン ちゃんは作業途中で気付いてくれていたけど、正式に伝えてあったのは真直ちゃんだけだ。
式が終わり、三年生、二年生、先生方、父兄の皆さんがグラウンドに出て来た。グラウンドの横一杯に並べられたボードを見てざわざわし始める。
真直ちゃんは澄み切った声で宣言する。
「ここに120セットのボードがあります!1セット5人!つまり・・・」
さあ、真直ちゃん!
「600人分!全校生徒、一斉大百足です!卒業生の皆さんにかこつけて在校生のわたしたちも全員走らせていただきます!」
わあああー!と、三年生と二年生が一年生の方へ走って来る。
もうその近くにいる者同士で三年生も二年生も一年生も、女子生徒も男子生徒もごちゃ混ぜでチームを組み始める。
「やったぁ!絶対一回走ってみたかったんだ!」
「最後の最後で選手になれたよ!」
「全員だけどね!」
みんな笑いながらボードを履く。
「美咲さん!三春ちゃん!縁美!絵プロ鵜!」
僕はずっと昔からの友だちみんなを呼んだ。
「実はスペアがひとつ余ってるんだ!」
僕が掲げたボードに群がって集まる僕ら5人はまるで高校生みたいにはしゃいだ。
「先頭は当然一番背の高い縁美ちゃんでしょ!」
「美咲さん、わたし頑張ります!」
「しんがりは?」
「そりゃあ責任者の蓮見っちでしょぉー」
「僕、責任者じゃないですよ」
「ううん」
縁美が先頭から僕を振り返って笑顔で叫んだ。
「責任、取ってね!」
校長先生がマイクでがなる。
「全員!全力!全速!」
「ゆっくりだよー。言うこと聞いちゃダメだよー、ひゃひゃひゃ!」
校長先生を全否定する真直ちゃんの後で、体育の先生が、パン!と号砲を鳴らした。
「わあああああああー!」
全校生徒プラス僕らの605人が横一列に並んで、グラウンドを横断する。
「いち・にぃ、いち・にぃ!」
「せや!どや!せや!どや!」
校長先生が怒鳴った。
「引きずるんじゃない!腿を上げるんだ!」
パブロフの犬のように今度は全員校長先生の声に反応して、頑張って頑張って足を上に持ち上げる。
ド!
ド!ド!
ドドドドドドドド!
「走れぇ!進めぇ!」
「蹂躙するんだぁ!」
「下品なこと言うなぁ!」
学校のご近所の方たちが、地震か!?と一斉に飛び出して来た。
校長先生が更に怒鳴る。
「近隣住民の皆さん!本日巣立つ若者たちのこれが晴れ舞台!どうぞご声援をお願いします!」
大百足は毎年地域住民も楽しみに観戦しに来ている。
みなさん大喜びで応援してくださった。
各車スピードはバラバラ。
息も合ってたり合ってなかったりだけどそろそろグラウンドの向こう側にゴールするボードも出てきた。
「ちょっと!ウチら遅れてるよ!」
「ほんとですねぇ、美咲さぁん」
「蓮見どの!縁美どの!」
絵プロ鵜が珍しく大声で叫んだ。
「これが我らの卒業式さね!」
そうだ。
中学を出た15歳の時から高校へ進学せずに社会の中でなんとか暮らしてきた僕ら。
もう20歳になってるけど、便乗させてもらおう。
「蓮見くん!後ろ大丈夫!?」
「うん!まだまだ行ける!縁美は!?」
「もうつんのめって潰れそう!」
あと5m・・・
3m・・・
1m・・・
最後は全員で笑いながら倒れ込んだ。
「「「「「ゴール!!」」」」」
⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎
1話1000文字の長編恋愛小説、最終話は2000文字となりました。
コロナが世の中にモヤをかけるようにして覆い尽くし始めた頃から書き続けて来たこのお話、まだ不安な日々が続きますけれどもこうしてエンディングを迎えることができました。
お付き合いくださった皆様には本当に感謝申し上げます。
わたしの中二病かもしれませんけれども、蓮見くんも縁美ちゃんも絵プロ鵜ちゃんも真直ちゃんも、みんな、街のどこかで頑張っています。
どうか時々思い出してくださいね。
それではこれで失礼いたします。
ありがとうございました!
令和3年3月18日
naka-motoo
春ですね!
保管スペースの関係と、それから卒業生たちへのサプライズのために、ボードのデリバリーは式の始まる直前にした。
「おー、
「
「蓮見せんぱぁい。お届け物ですぅ」
(有)零細清掃社にデリバリーを依頼したんだ。トラックにボードを積んで美咲さんと
「蓮見っちもやるもんだね。みんなびっくりするよ」
「だといいんですけど」
体育館の中で行われている卒業式が終盤に近付いた頃、一年生たちが
「
「敵を欺くにはまず味方から。
僕は縁美にメールした。
『おいで』
グラウンド横の道路にハザードランプを点けて駐車していた縁美のスーパーの大型バンがグラウンドにゆっくりと入って来て停まった。
「皆さん、お待たせしました」
「残りのボードさね!」
生徒たちに挨拶しながら縁美と絵プロ鵜はバンの後部ハッチを開ける。
実は縁美のスーパーは毎年卒業式の謝恩会のオードブルの注文を受けていて、その配達と一緒にボードも積んで来てもらったんだ。
「え!え!これ全部!?」
「すっげえいっぱいある!」
一年生たちが驚きながら美咲さんたちのトラックと縁美たちのバンからボードを下ろしていく。
「みんな!グラウンドの横一列に2m間隔で並べて行って!」
この場を仕切るのは
「おいおい。この数って・・・」
「ああ、そういうことだな」
一年生たちは僕の意図を察してくれた。
もちろん
式が終わり、三年生、二年生、先生方、父兄の皆さんがグラウンドに出て来た。グラウンドの横一杯に並べられたボードを見てざわざわし始める。
真直ちゃんは澄み切った声で宣言する。
「ここに120セットのボードがあります!1セット5人!つまり・・・」
さあ、真直ちゃん!
「600人分!全校生徒、一斉大百足です!卒業生の皆さんにかこつけて在校生のわたしたちも全員走らせていただきます!」
わあああー!と、三年生と二年生が一年生の方へ走って来る。
もうその近くにいる者同士で三年生も二年生も一年生も、女子生徒も男子生徒もごちゃ混ぜでチームを組み始める。
「やったぁ!絶対一回走ってみたかったんだ!」
「最後の最後で選手になれたよ!」
「全員だけどね!」
みんな笑いながらボードを履く。
「美咲さん!三春ちゃん!縁美!絵プロ鵜!」
僕はずっと昔からの友だちみんなを呼んだ。
「実はスペアがひとつ余ってるんだ!」
僕が掲げたボードに群がって集まる僕ら5人はまるで高校生みたいにはしゃいだ。
「先頭は当然一番背の高い縁美ちゃんでしょ!」
「美咲さん、わたし頑張ります!」
「しんがりは?」
「そりゃあ責任者の蓮見っちでしょぉー」
「僕、責任者じゃないですよ」
「ううん」
縁美が先頭から僕を振り返って笑顔で叫んだ。
「責任、取ってね!」
校長先生がマイクでがなる。
「全員!全力!全速!」
「ゆっくりだよー。言うこと聞いちゃダメだよー、ひゃひゃひゃ!」
校長先生を全否定する真直ちゃんの後で、体育の先生が、パン!と号砲を鳴らした。
「わあああああああー!」
全校生徒プラス僕らの605人が横一列に並んで、グラウンドを横断する。
「いち・にぃ、いち・にぃ!」
「せや!どや!せや!どや!」
校長先生が怒鳴った。
「引きずるんじゃない!腿を上げるんだ!」
パブロフの犬のように今度は全員校長先生の声に反応して、頑張って頑張って足を上に持ち上げる。
ド!
ド!ド!
ドドドドドドドド!
「走れぇ!進めぇ!」
「蹂躙するんだぁ!」
「下品なこと言うなぁ!」
学校のご近所の方たちが、地震か!?と一斉に飛び出して来た。
校長先生が更に怒鳴る。
「近隣住民の皆さん!本日巣立つ若者たちのこれが晴れ舞台!どうぞご声援をお願いします!」
大百足は毎年地域住民も楽しみに観戦しに来ている。
みなさん大喜びで応援してくださった。
各車スピードはバラバラ。
息も合ってたり合ってなかったりだけどそろそろグラウンドの向こう側にゴールするボードも出てきた。
「ちょっと!ウチら遅れてるよ!」
「ほんとですねぇ、美咲さぁん」
「蓮見どの!縁美どの!」
絵プロ鵜が珍しく大声で叫んだ。
「これが我らの卒業式さね!」
そうだ。
中学を出た15歳の時から高校へ進学せずに社会の中でなんとか暮らしてきた僕ら。
もう20歳になってるけど、便乗させてもらおう。
「蓮見くん!後ろ大丈夫!?」
「うん!まだまだ行ける!縁美は!?」
「もうつんのめって潰れそう!」
あと5m・・・
3m・・・
1m・・・
最後は全員で笑いながら倒れ込んだ。
「「「「「ゴール!!」」」」」
⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎ ⚡︎⚡︎⚡︎⚡︎
1話1000文字の長編恋愛小説、最終話は2000文字となりました。
コロナが世の中にモヤをかけるようにして覆い尽くし始めた頃から書き続けて来たこのお話、まだ不安な日々が続きますけれどもこうしてエンディングを迎えることができました。
お付き合いくださった皆様には本当に感謝申し上げます。
わたしの中二病かもしれませんけれども、蓮見くんも縁美ちゃんも絵プロ鵜ちゃんも真直ちゃんも、みんな、街のどこかで頑張っています。
どうか時々思い出してくださいね。
それではこれで失礼いたします。
ありがとうございました!
令和3年3月18日
naka-motoo
春ですね!